前回、腹腔鏡手術について、簡単なお話をさせていただきました。私は長野市民病院で腹腔鏡手術を習得した当時から、TEP法を中心に手術しておりました。TEP法で手術した方が良い場合はTEP法で、TAPP法で手術すべき症例はTAPP法でというのが病院の方針でしたので従っていた訳ですが、普及する前からTEP法を教わることが出来たことは大変幸運なことでした。TEP法は腹膜の外側だけで手術を済ませてしまうので腹膜の中にある腸などの臓器への影響が極めて少なく、癒着を起こす恐れがないので、理にかなっていると考えています。万が一、患者様が将来、腹部の手術をお受けになる際に癒着があると手術の選択肢が少なくなります。時には手術の成否まで分けてしまいますので、極力腹膜の中は触らないという方針です。TEP法は筋膜と腹膜の間からメッシュを敷き込んでいきます。そしてこの方法は手術をする者の経験値が手術の成否に大きく影響します。私はがんの手術にも関わっておりましたので、そけいヘルニアが完治した後、がんの手術をすることも考え、TEP法もTAPP法も身に付けなければならない環境におりました。ですからどちらの術式も慣れています。またヘルニア学会が2015年に作成したガイドラインでは、TEP法の方が痛みが少ないと言われています。TEP法は多くのメリットがある反面、難しさもある術式ですので、腹腔鏡でそけいヘルニア(脱腸)の手術をお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。
この記事を書いたのは…
2002年山梨医科大学卒業。2008年長野市民病院でTEP法をみて衝撃を受ける。以来、鼠径ヘルニアの理想的な治療はTEP法だと確信して手技の研鑽を積む。2017年8月の開院から全ての手術を執刀。「初診から術後経過まで、執刀した外科医が責任を持って診るべし」が信条。好きな言葉は『創意工夫』