Contents
新機種『Stryker 1788』
4年ごとに新機種を投入するStryker
2023年12月の最終週、2泊3日でStryker社の4K腹腔鏡カメラの新機種『1788』をお借りすることができました。
日本では、先日の内視鏡外科学会の学術集会でお披露目したばかりの新モデルで、デモの依頼が殺到してたため年始からは借りることができなかったのですが、年末の短い期間であれば、すぐに貸し出していただけるということで、この日程でお願いすることになりました。
Stryker社のカメラは、昔から画質に定評がありました。さらに新モデルを4年毎に出していて、新技術の導入に積極的です。前回、2019年に発売された1688は、当院の機器更新のタイミングと合わなかったのですが、今回の1788の発売は、ちょうどタイミングが一致しました。
Stryker 1788は、最新の技術が投入されているモデルであり、基本性能は、解像度3840x2160、4:4:4 YCbCr 10bit、60p、BT.2020、HDR(HLG)とスペックだけ見ても実力が高いことが伺えます。
搬入日を除くと、2日間のデモだったので、セッティングを含めて、短期間でいい映像が出せるかが課題になります。
それというのも、この腹腔鏡の映像というのは、昔から各メーカーで色合いの味付けが微妙に異なっているのです。自分の個人的な見解では、Olympusが赤が濃くてやや青みがかったシャープな映像、Storzが赤と黄色が柔らかく温かみのある映像、Strykerが黄色と青が特徴的なシャープな映像という印象があります。これは単にイメージセンサーの性能だけではなく、組み合わせる硬性鏡の性能、術野を照らす光のスペクトルにも左右されます。
タワーから硬性鏡までシステム一式をデモ
当院では、本体のプロセッサー部分は OLYMPUS VISERA 4K UHD を使っておりますが、硬性鏡はStorz社の10mmのものを使っています。メインの硬性鏡を5mmから10mmに変更した際に、各社の10mm硬性鏡をデモでお借りして、この組み合わせになりました。レンズ部分を変えることで、従来のOLYMPUSの赤が濃くシャープな映像に、Stortzの赤と黄色が柔らかい色合いがミックスされて丁度いい具合になっています(あくまでも個人的な見解です)。
では、Stryker 1788は一体どういう映像になるのでしょうか。
お借りしたのはシステム一式で、本体プロセッサー、4Kカメラヘッド、LED光源、純正有機ELモニター、光源コード2本、硬性鏡1本です。
光源は、LEDとなり、随分と明るくなりました。光量を測定したのですが、センサーの直近で測定すると明るすぎて測定不能でした。5㎝離して測定しても、現在使用している、キセノン光源より高い数値となりました。
実際の測定値が、OLYMPUSのキセノン光源ではセンサー直近で照度62600ルクス、StrykerのLED光源ではセンサーから5㎝離れて照度83700ルクスでした。
画質は3段階で出力可能で、4:4:4 YCbCr 10bit、4:2:2 YCbCr 10bit、4:2:0 YCbCr 8bitの3段階になります。10bitと8bitの違いは色調の段階が、2の10乗=1024段階か2の8乗=256段階かの違いで10bitの方が高画質になります。4:4:4というのは色差と呼ばれるもので、4:4:4が最も圧縮がなく高画像になります。4K録画をするときに録画器の性能によって、最高画質での録画ができない場合があるため、この3段階の設定を用意しているそうです。確かに4:2:0 YCbCr 8bitでの4K画像は、大型モニターに映像を映すとザラザラしたデジタル感がありましたが、4:4:4 YCbCr 10bitでの4K映像は、大型モニターでもクリアでとても綺麗な映像になりました。しかし、録画に関しては、当院でも4K録画を行っておりますが、録画機の性能が4:2:2 YCbCr 10bit までの対応であったため、今回は、4K(4:4:4 YCbCr 10bit)での録画はできませんでした。
OLYMPUS VISERA 4K UHD との比較
モニターへの出力は、HDMI(2.0b) 2系統のため、変換器を使用せずに、当院の大型モニターに接続できました。モニターは3840x2160、4:4:4 YCbCr 10bit、60p、BT.2020、HDR(HLG)の全てに対応しているため、高画質の映像が映し出されました。
当院使用モデル
OlYMPUS VISERA 4K UHD 2015年12月発売 |
新モデル
Stryker 1788 2024年1月発売 |
|
解像度 | 3860x2160 | 3860x2160 |
フレームレート | 59.94fps | 60fps |
ビット深度 | 10bit 4:2:2 | 10bit 4:4:4 |
色域 | 専用モニターでBT.2020相当
(映像信号はBT.709) |
BT.2020 |
輝度 | SDR | HDR(HLG) |
出力端子 | Quad-link 3G-SDI 2系統 | HDMI(2.0b) 2系統 |
カメラヘッド | 280g
auto focus CMOS サイズ非公表 |
重量不明
manual focus CMOS 1/2.8インチ |
光源 | キセノンランプ | LEDランプ |
比較の表で見ると、ビット深度、輝度に明らかな差がでています。
「映し出された映像が綺麗かどうか」が一番大事なポイントですが、
今まで見た手術映像の中で、一番きれいな映像でした。
鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術の質を上げてくれるデバイスだと確信しました。
65インチと大型モニターに拡大した映像でもざらついた感じやボケがなく、クリアに映し出されたのが印象的でした。BT.2020 + HLG の映像は、色の主張が強すぎず、自然な感じに見えました。BT.2020は色が強く出すぎて、かえって見づらくなることもあるのですが、
とにかく、細かいところまではっきりと視認できて、発色も鮮やかすぎることなく、見やすい色合いでした。
実はこの色合いですが、各メーカーによって味付けが違います。当然、初期設定は、Strykerの特徴的な黄色と青色がシャープな映像だったのですが、この設定が自由に変えられるのです。今まで、OLYMPUSやStortzを使っていた外科医の好みに合わせて、設定が変えられるとのことで、この設定をすぐに変えてもらえました。見やすい色合いの映像となりました。
実際の手術中の写真で比較すると、ともに本体4K→2Kコンバーター→録画器、さらに動画のスクリーンショットからweb用に圧縮されているため、実際の映像を表現しているとは言い切れないですが、双方の特徴がよく出ています。下の2枚がTEP法でメッシュを挿入する直前の剥離された腹膜前腔の一コマです。
映像の綺麗さの決め手になるのは?
しかし、そうなると、また疑問が生じます。
「綺麗な映像は、加工して作れるのではないか」という疑問です。
カメラで見た場面をイメージセンサーから入力されて電気信号に変換されるときに、できるだけ正確に映ったものを再現することは大事なことです。カメラヘッド内部のイメージセンサーで映ったものを細部まで正確にとらえることさえできれば、本体のプロセッサーで色合いを調整することで、いくらでも綺麗にできるわけです。このイメージセンサーの性能の良さ、プロセッサーでの色合いの調整の自由度こそが、器械全体の性能に大きく影響してくると言えます。
最近の映像機器のイメージセンサーは、ほとんど全てにCMOSが使われています。CMOSは、センサーの大きさが大きいほど高画質といわれていますが、その分価格も高額になります。また、イメージセンサーが大きくなると画像は綺麗になりますが、焦点深度が浅くなるため、ピントの幅が狭くなります。さらにイメージセンサーが大きい分だけ、カメラヘッドの大きさや重さにも影響が出てきます。カメラデバイス全体としての使い勝手は悪くなるため、一概に大きいイメージセンサーがいいという訳にはいかないのです。
一般的には、デジタル一眼レフカメラは35mmのイメージセンサー、コンパクトデジカメの高性能タイプで1インチ、スマートフォンなどでは1/3インチの小型のイメージセンサーが使われています。
毎年毎年、新しいCMOSセンサーが開発されて、小型化・高性能化されているため、イメージセンサーの大きさだけで、画質の良し悪しは判断できません。今回、デモしたStryker 1788は、1/2.8インチのイメージセンサーで、イメージセンサーが特に大きいわけではありません(むしろ小さい)が、画質は今までで一番良かったです。発売したばかりのモデルだけに、イメージセンサーも小型化・高性能化されているようです。こういった映像の綺麗さは、大型画面に映し出すことで、細かい部分の表現の違いが顕著に現れます。小さいモニターでは、多少の粗があってもそれなりに綺麗に映りますが、大型モニターでは誤魔化しがきかなくなります。そういった意味では、当院の65型の大型モニターで映すことで、映像の綺麗さを実感できました。
また、イメージセンサーが小さいため、焦点深度が浅すぎてピントが狭いという感じはなく、カメラヘッドも小型軽量でした。
高性能のイメージセンサーで物体を映像信号として精細に捉えることができれば、モニターで出力する色合いは本体プロセッサー側でいくらでも微調整できる、とういうことです。ただし、この微調整が一番難しいのですが、立ち合いしていただいたStrykerの営業担当の方が非常に優秀な方で、希望した色合いにすぐに切り替えてもらうことができました。実はこの設定項目は、Strykerの営業マン同士で情報を共有しているそうで、「このドクターにはこの設定」とか、「消化器外科ではコレ」とか、「OLYMPUSを長く使っていた施設ではOLYMPUS調に合わせたあの設定」とか、様々な設定を持っていると聞きました。実際の設定中の本体の写真が撮れなかったのですが、操作画面のインターフェイスも非常に直感的で、操作しやすいパラメーター表示になっていました。
「綺麗な映像」を映し出すには、
元となる映像のきめ細やかさと(イメージセンサーの性能)、
色合い調整のノウハウ(本体性能 + 設定)が重要だったのです。
ということで、大成功に終わった今回の Stryker 1788 のデモでしたが、実は、最後まで分からなかった謎が一つありました。
それは、LED光源のスペクトルです。
実は、StrykerのLED光源のスペクトルは、かなり特徴的な光を当てているのです。
それは自然光のスペクトルとは、かなりかけ離れているのですが、この光源のスペクトルを調べていくと新たな発見がありました。
この話は、また別の機会でできれば、と思います。
この記事を書いたのは…
2002年山梨医科大学卒業。2008年長野市民病院でTEP法をみて衝撃を受ける。以来、鼠径ヘルニアの理想的な治療はTEP法だと確信して手技の研鑽を積む。2017年8月の開院から全ての手術を執刀。「初診から術後経過まで、執刀した外科医が責任を持って診るべし」が信条。好きな言葉は『創意工夫』