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アダチ FLEXI VISION easy 4Kカメラシステム のデモ

『FLEXI VISION easy 4Kカメラシステム』

2024年1月下旬、アダチ社の4K腹腔鏡カメラ『FLEXI VISION easy 4Kカメラシステム』をお借りしました。

実は、このモデルは、2020年発売されたもので最新機種とは言えません。では、なぜデモ器を借りたかというと、気になる性能があったからです。

その性能とは・・・

Quad-Link 3G-SDI での BT.2020の色域

CRI >90 の LED光源

光学ズーム

の3点です。

OLYMPUS VISERA 4K UHD との比較

当院で使用している2015年発売のOLYMPUS VISERA 4K UHD は、Quad-Link 3G-SDIでの接続ですが、残念ながら、汎用性のあるBT.2020信号は出せていなかったことがわかりました。ならば、2020年発売のモデルでは、表現できているのか、この点が気になったので、無理を言って、アダチさんに器械一式をお借りしました。アダチ社の『FLEXI VISION easy 4Kカメラシステム』は、ドイツのSCHÖLLY FIBEROPTIC GMBH(シェリーファイバーオプティック)社で製造されたもので、国内ではアダチ社がその販売を請け負っております。必要十分の最小限の機能に絞り、価格を抑えたシステムながら、高性能を実現しています。また本体に1920x1080画質で録画できるUSBポートを持っているため、あらためて録画器を買わなくていいのも嬉しいポイントです。

当院使用モデル

OlYMPUS VISERA 4K UHD

2015年12月発売

アダチ

FLEXI VISION easy 4K

2020年発売

解像度 3860x2160 3860x2160
フレームレート 59.94fps 50fps
ビット深度  10bit 4:2:2  10bit 4:2:2
色域 専用モニターでBT.2020相当

(映像信号はBT.709)

BT.2020
輝度 SDR SDR
出力端子 Quad-link 3G-SDI 2系統 Quad-link 3G-SDI 1系統
カメラヘッド 280g

auto focus

焦点距離 f = 23.5 mm

CMOS サイズ非公表

330g

manual focus、光学ズーム

焦点距離 f = 14.25 – 28 mm

3 x CMOS 1/3インチ

光源 キセノンランプ LEDランプ(CRI>90)

『CRI』とは何か?

調べてみると、Quad-Link 3G-SDIでのBT.2020のほかに、CRI>90のLED光源、光学ズーム搭載の4Kカメラヘッド、本体USB端子でのFHD録画機能とギミック満載のシステムだったのです。特に、LED光源でのCRI>90、これは、どこのメーカーも謳っていない性能でした。

『CRIとは何ぞや?』

やはり、ここから始めなければなりません。

CRIとは、Color Rendering Index の略称で、日本語では演色評価数と呼ばれ、演色性を評価する指数となります。

「演色性」とは、ランプなど発光する道具・装置が、ある物体を照らしたときに、その物体の色の見え方に及ぼす光源の性質のこと。一般的に自然光を基準として、近いものほど「良い」「優れる」、かけ離れたものほど「悪い」「劣る」と判断されるが、演色性に正確性を要求されるような専門的分野においては、数値化された客観的判断基準が設定されていることが多く、演色評価数がこれにあたる。(Wikipediaより引用)

この客観的な基準の一つが、CRI(Color Rendering Index、演色評価数)なのです。

国際照明委員会(CIE)がこの基準を定めていて、CIEの定める標準光(色温度6774Kの平均昼光)を基準に0から100まで指数化したものです。評価する色は、平均演色評価数(Ra)の8色の平均値がCRIの数値となります。

しかしこの平均演色評価数(Ra)が規定されたのが1960年代で、かなり昔の時代のものなのです。照明機器の進歩により、この8色の評価では時代に合わなくなっていたため、それを補うために、特殊演色評価数(Ri)の7色を加えて、Ra値(8色の平均値)+特別7色で評価されています。

別の評価方法として、99色のリファレンスカラーを使った「TM-30-15」や、連続スペクトルとしてx軸に波長、y軸に強度をとりグラフで表す方法などもあります。

太陽光のCRIは?

試しに太陽光(2023年12月22日13時30分頃)を測定してみると、

CRIは99.5

R1~R15までほぼ全ての項目が99以上になります。

室内のLED蛍光灯のCRIは?

一般的な室内のLED蛍光灯では、

CRIは81.5

青が強く、赤が少ない照明になります。LED蛍光灯で、何となく顔色が悪く見えてしまうのは、これが原因かもしれません。

手術室のLED無影灯のCRI値は?

手術室で使っているLED無影灯では、

CRIは98.6

太陽光と比べると赤が弱いですが、通常の室内用のLED蛍光灯と比べると、波長全域にわたり強度が増しているのがわかります。

アダチのLED光源のCRIは?

そして、今回のアダチのLED光源では、

CRIは90.0

室内用LED蛍光灯と手術用の無影灯の中間ぐらいの強度でしょうか。腹腔鏡手術用の装置の場合は筐体の大きさに限りがあり、使えるLEDの大きさや数も少なくなるのでやむを得ないかもしれません。今回の測定では、ギリギリですが、CRIは90.0でした。

アダチのQuad-Link 3G-SDIは、BT.2020信号がでている

続いて、Quad-Link 3G-SDI端子でのBT.2020ですが、これは変換器(AJA 12GM)のステータス画面で確認ができました。

SMPTE(米国映画テレビ技術者協会)が定めるST 425 MとかST 2110とか様々な規格が制定されています。しかしこれらの情報は、SMPTEの会員以外には公開されていない情報のため、会員の人が技術解説をしている文献やホームページを見ながら情報収集をするしかありません。しかも、12G-SDIの登場で、Quad-Link 3G-SDIの必要性は低下し、情報が少なく露出もないため、SMPTEの会員以外では、Quad-Link 3G-SDIが、実際にどういう規格で動いているかを知る由がなかったのです。そういう意味で、2020年発売の『FLEXI VISION easy 4Kカメラシステム』のQuad-Link 3G-SDI端子では、BT.2020信号が正常に出力できているのを確認できたのは良かったです。

光学ズームの性能は?

個人的には、光学ズームがどれほど効果が出るかが気になるところでした。

デジタルズームでは、映ったものを拡大するだけなので、画質は拡大前のものと変わらず、ただ大きく映るだけになります。一方で光学ズームは、レンズを使って拡大視するため、映っている部分すべてをそのままイメージセンサーで変換することができます。

カメラヘッドに硬性鏡を装着して、硬性鏡越しに実像をイメージセンサーに取り込み映像化されるわけですが、長方形のイメージセンサーに丸い硬性鏡を装着すると、どうしても円の外の部分が切れて黒く映ります。光学ズームは、中心近くの範囲を光学ズームで拡大するので、画質を損なうことなく、横長長方形のイメージセンサーを目いっぱい使うことができるのです。

光学ズームが効果的な場面は、術野が狭くて、カメラの先端と操作する鉗子が密集するケースです。カメラを少し離れたところにセットし、その映像を拡大できることは大きなメリットになります。また、奥行きのある術野で頻繁にカメラを前後に動かすケースでも、光学ズームは最小限のカメラ移動で術野を映すことができます。

その反面、拡大視することで焦点深度がさらに浅くなるため、大きいイメージセンサーが使いづらくなります。大きいイメージセンサーはもともとの焦点深度が浅く、ピントの幅が狭いからです。おそらく、この弱点を補うために、『FLEXI VISION easy 4Kカメラシステム』では、1/3インチと小さめのイメージセンサーを使い、ピント幅を広げているのだと思います。小さいイメージセンサーの弱点である画質の低下や色の表現力の低下については、CMOSセンサーを3つ搭載して、発色を強化しています。

次期モデルに期待、尖った性能のものを出して欲しい

2020年発売のため、最近発売されたモデルと画質を比較するのは、さすがに分が悪すぎますが、価格を抑えたうえでの、Quad-link 3G-SDIでのBT.2020の色域、LED光源のCRI>90、光学ズームは、他社の製品にはない性能であると思います。

当院では、器機更新のタイミングで、最新器械の導入に重点をおいていますので、今回はデモのみとさせていただきましたが、個人的には、次期モデルでは、3 CMOSではなく、大型イメージセンサーを単板にして光学ズームを搭載するようなカメラを期待します。

焦点深度なんか浅くなったっていいんですよ。

光学ズームで画面いっぱいにドドーンっと広がる、見やすい綺麗な映像で、手術がしたいんです。

こういった尖った性能のモデルを作っていただけないでしょうか。

大型単板、光学ズームの4Kカメラを期待しています。

アダチの皆さん、無理なお願いにもかかわらず、器機のデモをさせていただき、本当にありがとうございました。

この記事を書いたのは…

横浜青葉そけいヘルニア・外科クリニック | + posts

2002年山梨医科大学卒業。2008年長野市民病院でTEP法をみて衝撃を受ける。以来、鼠径ヘルニアの理想的な治療はTEP法だと確信して手技の研鑽を積む。2017年8月の開院から全ての手術を執刀。「初診から術後経過まで、執刀した外科医が責任を持って診るべし」が信条。好きな言葉は『創意工夫』

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