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Stryker 1788 を導入して3か月…
2024年4月にStryker 1788を導入して、3か月半が経ちました。
7月中旬までに170例ほど、手術を行いましたので、使用感をお話したいと思います。
2023年12月末に4例ほどデモで使用したのですが、第一印象はとにかく映像が綺麗なことでした。
特に大型の有機ELモニターの相性が抜群で、特に焦点のあった画面中心部の映像は、構造の細部まで見ることができて、精細さはOLYMPUS VISERA 4K UHDより上と感じました。4例ほどの使用経験だったので、それ以上の細かいことは分からず、期待だけがどんどん膨らんでの導入となりました。デモの時に録画した映像を何度も繰り返し見て、比較していたのですが、録画の映像はハイビジョン、BT.709の画質であったため、実際の手術中に見る映像とは少し違っていたのかもしれません。
実際の最初の症例は、映像の「色合い」に戸惑いました。
実は、OLYMPUSとStrykerの「絵作り」に根本的な違いがあるのです。
OLYMPUS と Stryker の「絵」の違いは?
OLYMPUS と Stryker の「絵」の違いは、①赤(やや青より)系統の色の使い方 ②輪郭強調 に大きな差を感じました。
OLYMPUS の特徴
OLYMPUSは、すべての臓器を色鮮やかに見せ、境界は少しぼやかすことで、絵的には非常にきれいに見せています。青寄りのシアン系の色が強く表現することで、腹膜のピンク、精管と血管の青み、筋肉の赤みを表現しています。画像は焦点のあっていない画面外れまで比較的綺麗に映りますが、全体的にはやや暗く映ります。VISERA 4K UHDは、このバランスが比較的良かった(暗所の表現力が低かっただけかもしれません)のですが、後継のVISERA ELITE Ⅲは色の一つ一つが強すぎて、鮮やかになり過ぎた感じがしました。またHDR機能が搭載されていましたが、VISERA ELITE Ⅲでは、HDRのONとOFFでの違いが分かりにくかったです。
Stryker の特徴
Strykerは、組織の赤みを抑えて、脂肪の黄色を強調することで、出血の赤を際立たせています。組織全体は薄く白っぽく映るのですが、腹膜と脈管は白っぽく、筋肉の赤はやや薄く、脂肪の黄色が際立ち、そして出血の朱色がとにかく目立ちます。TEP法では腹直筋と腹直筋後鞘の間にカメラを進めていくのですが、この時に見える腹直筋の色合いが、実際の目で見ているような薄めの赤でうまく表現されている気がします。また、焦点の合っている画面中央の近接した映像は、素晴らしく綺麗です。逆に遠景から全体を見るような場面では奥行き感が乏しく、映像がややのっぺりとした感じになります。HDRのONとOFFで、はっきりと違いが判り、特に暗い部分と明るい部分が同時に映る場面では、HDRの効果がはっきりと確認できました。HDRの影響で画面全体が明るくなっているので、画面の外側寄りまで暗くならず、はっきり見える分だけ、映像がやや落ちるように見えてしまうかもしれません。
輪郭強調モードに戸惑いも
Stryker 1788 を導入して、当初、戸惑ったのが、初期設定の輪郭強調モードでした。腹部外科の初期設定では、輪郭強調をかなり強くしていたので、構造物の境目に黒い線が強く映り、全体的にごちゃごちゃする印象を受けました。こちらの初期設定を初期設定の半分ぐらいまで下げると、境界に適度なエッジが効いた良い映像になりました。ゼロまで下げるとVISERA 4K UHDに近い、境界を少し曖昧にして全体を綺麗に見せる映像になりました。
基本となっている「絵作り」の方向性が違うため、それによって 表現される映像の「色合い」に差が出てくるのだと思います。
この「色合い」の差が、OLYMPUS と Stryker 、あるいはSTORZなど、どのメーカーを選択するかの決め手になります。
Stryker 1788 の「色合い」は?
Stryker 1788の特徴は、色調整が自在にできることです。設定できるパラメーターが多彩なため、おそらくOLYMPUSと同じような「色合い」を出すことも可能です。最初は、OLYMPUSの「色合い」を再現して使おうかと思いましたが、結局は初期設定から大きく変えることはせずに、推奨設定から輪郭強調を少し弱めた設定で使っています。この「色合い」に開発者が考える理想の手術映像があるのではないか、と思っています。
Stryker 1788の「色合い」には、出血の朱色とまわりの組織を明確にする意図が感じられます。そのため、出血の赤と脂肪組織の黄色が特に強調され、シアンなどの青系の成分を弱めているのかもしれません。またHDRがよく効いているため、画面に赤が増えてきても暗くならずに、全体を明るく保ったまま手術ができます。ただし、画面に赤が増えてくるとノイズが強くなるのか、全体の画質が落ちていく気がします。逆にOLYMPUS VISERA 4K UHDでは、ノイズが強くなるというよりは、画面全体が暗くなり見えづらくなります。この辺りのデジタル処理技術の違いが、最新機種の特徴かもしれません。
鼠径ヘルニアの手術では…
鼠径ヘルニア手術の場合だと、通常の症例では出血がほとんどでないため、わずかな出血でも際立つため、すぐに止血を行うので全体の出血量がさらに減った気がします。しかし、鼠径ヘルニアの手術といえど、長年放っておいて大きくなってしまったり、嵌頓まではいかないものの出入りを繰り返し痛みが強い症例では、炎症や癒着によって通常よりも出血しやすいため、画面全体の中の赤色が増えます。こういったときにStryker 1788は、暗くならずに全体が明るく、よく見えます。
もう一つ、鼠径ヘルニアの手術で特徴的なのは、手前から骨盤方向の奥に向かって見下ろす視野になることです。画面4時方向右手前の腰骨付近から、12時方向の鼠径管、10時方向のクーパー靭帯から恥骨結節に向かって、緩やかな傾斜が存在しています。この時にどこにカメラのピントを合わせるかで映像に違いが出ます。同じ画面の中でも奥行きに幅が出てくるのです。
Stryker はイメージセンサーが小さめ
気になっている点は、小型イメージセンサーの影響です。Strykerは、前モデルの1688、現行モデルの1788ともに、1/2.8インチと比較的小さいイメージセンサーを使っています。一般的には、イメージセンサーが大きいほど映像がきれいになるといわれていますが、この辺りの影響がどれだけでているのかがわかりません。しかし、感じている印象は、奥行きのない場面で接近する映像は素晴らく綺麗ですが、奥行きがあるときに全体を映す場面では、ボケを作らずに全体を映せる代わりに奥行き感がつぶれたもやっとした映像になっている気がします。この辺りが大きめのセンサーを使っているOLYMPUS VISERA 4K UHDとの違いだと思います。VISERA 4K UHDは、センサーサイズは非公表ですが、カメラヘッドの大きさと2014年~2015年の開発年から予想して、おそらく1/1.8~1/2.1ぐらいのセンサーを使っているのではないかと思います。そのため、奥行きのある場面では、奥まった部分に適度なボケができて、画面中央が際立って見えます。自分の手術では、全体を観察するシーンももちろんあります。しかし細かい操作をするときは、カメラをギリギリまで近づけて、なるべく奥行きを作らない視野を出しています。こうすることで、小さいイメージセンサー特有の遠景でのつぶれ感は気にならなくなります。
使用するカメラでどれだけ差が出るのか?
多くの外科医が OLYMPUS のカメラに育てられた
国内では圧倒的なシェアを誇るのがOLYMPUSです。私も外科医として修業を積み始めた2002年から、OLYMPUSのカメラを使っていました。常勤先ではすべてがOLYMPUSだったので、VISERA Proのひとつ前のモデルから始まり(名前を覚えていません)、VISERA Pro、VISERA ELITEを経験して、2017年の開院から、VISERA 4K UHDを使っています。OLYMPUSが表現する「色合い」が当たり前の映像として、経験を積んできました。OLYMPUSの映像で育ってきたわけです。今回、Stryker 1788を導入して、初めてOLYMPUS以外のカメラを使ってみました。導入直後は、この「色合い」の違いに戸惑いましたが、多少の「色合い」が違うものの、映ってくる解剖に違いはないのですぐに慣れました。
究極の腹腔鏡カメラは?
二つの違う特性を持った4Kカメラを使ったことで、映像と手術の関係の奥深さに触れられた感じがします。画質の良さだけを追求するならば、一眼レフカメラのような35mmの大きなイメージセンサーを持つカメラに硬性鏡をつなげて手術をすれば、細部のこまかい線維まで綺麗に見れる映像になるのだと思います。しかし手術場では、大きなカメラは取り回しが悪くなるため、小型軽量の扱いやすさが求められます。手術用の4Kカメラに大型イメージセンサーの採用しにくいのは、取り回しの問題があるからです。それでも、できるだけ大きなイメージセンサーを使った性能のいいカメラで、細かな線維の1本1本まで再現するような綺麗な映像で手術をしたいと思ってしまいます。
現状の汎用モデルの最先端であるStryker 1788で手術を行うようになり、おおむね満足しております。しかし、理想をいえば、「もう少し大きめのイメージセンサーを搭載したら、どれほど綺麗な映像になるのだろうか」と興味が尽きないです。
究極の腹腔鏡カメラを求める道は、まだまだ続きそうです。
この記事を書いたのは…
2002年山梨医科大学卒業。2008年長野市民病院でTEP法をみて衝撃を受ける。以来、鼠径ヘルニアの理想的な治療はTEP法だと確信して手技の研鑽を積む。2017年8月の開院から全ての手術を執刀。「初診から術後経過まで、執刀した外科医が責任を持って診るべし」が信条。好きな言葉は『創意工夫』