12月上旬の金曜日、内視鏡外科学会に参加するために福岡までいってきました。今年もミニオーラルセッションの司会での参加になりました。福岡での開催でしたが、残念ながら、一日だけの日帰りでの参加です。翌週に神奈川ヘルニア研究会での発表を控えていて、久しぶりに学会・研究会で忙しい1週間になりました。
大腿ヘルニア嵌頓を中心としたセッション
大腿ヘルニアとは?
今回は、大腿ヘルニア嵌頓を中心としたセッションでの司会でした。
大腿ヘルニアは、高齢女性に多く発生する疾患で、ヘルニア門が狭いため、嵌頓に至ることも多く、緊急手術が行われることもしばしばあります。緊急手術になって、嵌頓部分を解除したとき、内容物が壊死しているかどうかで手術の方針が変わるため、興味深い内容でした。
修復は壊死を伴うかどうかで変わる
大腿ヘルニアの修復法は、メッシュを使わない場合はMcVay法という、Cooper靭帯と腸骨鼠径靭帯を縫縮して大腿輪を塞ぐという方法があります。しかし、現在は大腿ヘルニアを含む鼠径部ヘルニアの治療は、メッシュを使っての治療が主流になっているため、ただでさえ症例の少ない大腿ヘルニア嵌頓の症例で、McVay法を施行できるかは、ベテランの外科医が当直していても厳しい現実があります。そんな中で、現在、主流となっているのは、腹腔鏡での観察と嵌頓の解除、壊死が無ければメッシュでの修復、壊死があればヘルニア嚢を結紮して二期的に腹腔鏡手術というのが、侵襲が少ないため選択されることが多いです。
今回のセッションでは・・・
今回の発表の6演題は、いすれも腹腔鏡で緊急手術をスタートしていたのですが、大別すると、
- 壊死していない場合は一期的にメッシュを使ったTAPP法で修復
- 壊死を伴っていた場合、壊死部分切除をしたうえで、3か月後を目安に二期的にTAPP法での修復
- 壊死を伴っていた場合、壊死部分を切除のうえ鼠径部切開法を併用して一期的に修復
の3つに分類できました。
嵌頓内容物はいろいろ、壊死切除後の二期的修復が主流
大腿ヘルニアに嵌頓していた内容物は基本的に小腸やS状結腸が多いのですが、今回のセッションでは、虫垂、小腸と膀胱の同時嵌頓、S状結腸脂肪垂と多岐にわたりました。
大腿ヘルニアと同時に閉鎖孔へルニアと坐骨孔へルニアを同時に認めるなど、非常に珍しいケースの発表もありました。緊急手術では、嵌頓した腸管が壊死しているかどうか、血流が回復すれば可逆的に元に戻るのか、拡張しかかった腸管や腸間膜などの周囲の組織を損傷していないか、など判断が問われます。また選択する術式も、術者の得手不得手、緊急手術の当番医の経験に左右されるため、その時々で最善の方法が大きく変わる場合もあるのです。
非メッシュ修復のMcVay法に精通している外科医が減っている
興味深かったのは、同じ施設で対象の期間に、大腿ヘルニア嵌頓を腹腔鏡下で解除し壊死腸管の切除のみにとどめ二期的にTAPPを行った4症例と、鼠径部切開で一期的に腸管切除を含めたヘルニア修復術を行った4例の比較で、入院中の肺炎や腸閉塞などの合併症の発生率に差があり在院日数が一期的切除群の方が長かったという発表です。二期的TAPPと一期的修復の選択の違いは、当直していた外科医の得手不得手によって選択されたため、腹腔鏡手術ができるかどうかで、術後の経過が変わる可能性があったということです。討論のときには、論点になりませんでしたが、もしかすると非メッシュの修復後は、疼痛や再発の懸念があることから、術後早期のリハビリができなかったのかもしれません。McVay法に精通している外科医が少なくなっているのもあり、大腿ヘルニア嵌頓の手術は、腹腔鏡でスタートしたうえで、二期的な治療も考慮した治療が望ましいと言えそうです。
超ハイリスク患者には局所麻酔で鼠径部切開法という選択肢もある
鼠径部切開法のエキスパートなら、二期的に修復する際に、局所麻酔下に切開法でメッシュを使って大腿ヘルニアを治す方法もあります。もともと大腿ヘルニアの発症年齢が高齢女性に多いため、潜在的にリスクの高い患者さんが多くなります。基礎疾患や超高齢者で全身麻酔にリスクのある場合は、局所麻酔での切開法という方法も選択肢となります。
翌週に行われた神奈川ヘルニア研究会でのスペシャルゲストとして、北海道のみやざき外科・ヘルニアクリニックの宮崎恭介先生の講演がありました。その中で、最近は、全身麻酔にリスクのある超高齢者に対して、局所麻酔で鼠径部切開法を行ってほしいという紹介患者が増えているそうです。奇しくも、鼠径部切開法のスペシャリストが減ってきているという宮崎先生の内容の話と、今回の学会での大腿ヘルニア嵌頓で二期的腹腔鏡手術を選択するケースが増えていることに共通点がありました。
後編に続きます
この記事を書いたのは…
2002年山梨医科大学卒業。2008年長野市民病院でTEP法をみて衝撃を受ける。以来、鼠径ヘルニアの理想的な治療はTEP法だと確信して手技の研鑽を積む。2017年8月の開院から全ての手術を執刀。「初診から術後経過まで、執刀した外科医が責任を持って診るべし」が信条。好きな言葉は『創意工夫』