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鼠径へルニアのロボット手術の今後の展望 ~第37回日本内視鏡外科学会に参加(後編)~

内視鏡外科学会での最大の楽しみは、機器展示です。医工連携のセッションもあり、通常の学会より機器展示が多いのが特徴です。普段使っている手術の道具についても、少しでも鼠径ヘルニアの手術に役立つもの、もっと使いやすいもの、新しいコンセントの道具は出ていないか、展示されているものは全て確認するのが楽しみになっています。今回も、何か新しいものが開発されていないか隅々まで廻って見てきました。

全体的に目立ったのは、ロボットとAI技術に関するものが、目立ちました。会場の多くのスペースに手術用のロボットとAIによる手術補助システムが広く展示されており、期待の大きさが如実に現れていました。

学会会場の様子

そもそもロボット手術とは?

基本的なおさらいなのですが、ロボット手術とは、ロボットが全自動で手術を全て行ってくれる訳ではありません。実際にロボットを操作するのは外科医です。ロボットは手術の鉗子の動きをアシストするだけに過ぎないのですが、そのアシストが凄いのです。指先に当たる鉗子の部分が多関節鉗子となっていて、ありえない角度まで曲がったり、フィルター機能により手の震えが取り除かれたり、右手左手のほかに第3の助手の鉗子まで操作ができたりします。専用のコクピットからVRゴーグルのような左右独立した3D画面を見ながら、実際の患者さんとは離れたところで操作する手術になります。コンソールから操作さえできれば、術者は手術室にいる必要がないので、遠隔地からでの手術も可能なため、将来的に過疎地域など外科医がいない地域への応用も期待されています。

自動車の運転と外科手術でのAI技術の違いとは?

自動車のAI技術は完全に運転して、人は見てるだけでいい

一方で手術に応用されるAI技術には、様々なものがあります。

自動車の自動運転のAI技術に例えるとわかりやすいのですが、

自動運転を実現するには大まかに、①目的地までどうやって行くのか、一般道か高速道路かの判断、②信号や周りの車、歩行者など周囲の状況の把握、③実際の車を動かす運転技術。この3点を一つ一つ精度を高めて、実現された技術だと思います。これを外科手術の場合で考えると、①正確な解剖の理解と病気の部位を把握しての治療戦略、②手術で切り進めている中での解剖の把握、正しい解剖に沿っているかなどの状況判断、③実際の手術器具の操作、と同じように3つのポイントに分けられるのです。

手術のAIは、局所の解剖のナビゲーションまで

今回の学会でのAIの展示は、この②の状況把握のナビゲーションの部分でした。手術映像にリアルタイムでナビゲーションを表示して、大事な構造物を標識をつけて確認できるシステムです。薬事法の認可予定だったり、一部認可だったりと、まだまだ始まったばかりですが、今後は、この状況把握の部分でのナビゲーションシステムを中心に、AIの活用が広がっていきそうな予感がします。

近い将来、鼠径ヘルニアの手術にも、ロボット手術が保険適応になるかもしれませんし、AIによる完全手術ガイドシステムも始まるかもしれません。しかしながら、保険診療の適用の問題以外で、解決すべき障壁があると思っています。

学会会場の様子

日帰り鼠径へルニア手術でのロボット手術はどうなる?

ここからは、個人的な見解ですが、ロボットでの鼠径ヘルニア手術が保険適応になったと仮定して、日帰り手術クリニックで普及する課題とは一体何なのでしょうか。

すでにロボットを持っている病院が様々な手術を行う中の一つとして、日帰りでの鼠径ヘルニア手術をする可能性はあると思います。それは、大きな病院では教育的な側面もあり、鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術は、外科医2名で行っています。腹腔鏡からロボットに変わったとしても、外科医が2名で行うことには変わりありません。

ロボット手術の利点は人的資源の節約

日帰りでの鼠径ヘルニア手術は、一人の術者で行うことも多いです。熟練者であれば手技的にソロサージャリー、一人で手術することが可能な手術なのです。ロボット手術では、患者さんの体に直接ロボットを誘導する助手としての外科医と、離れたところでロボットを操作する執刀医の最低2名の医師が必要になります。実は泌尿器科での前立腺癌でのロボット手術が最初に普及したとき、ロボットの可動域の広い関節の動きもさることながら、今まで泌尿器科医が3人で行っていた腹腔鏡鏡手術が、ロボットのアシストにより2人の泌尿器科医でできるようになったことも、普及を促進させた大きな要因と考えられています。この点で鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術では、一人で完結できるような手術になったにもかかわらず、ロボット手術を行うためにもう一人の医師が参加しなければならず、人的資源の面から見るとメリットが少ないといえます。

学会会場の様子

欠点は鉗子が太い、キズが大きい

次に鉗子の太さの問題です。現在、ロボットの多関節鉗子は8mmに太さが必要になります。鼠径へルニアの手術では、臍付近のカメラポートのキズ以外に、操作のための鉗子を2本挿入するために、8mmのキズが左右の2ヶ所にできるのです。一方で通常の腹腔鏡手術では、この2ヶ所のキズが5mm径で済みます。施設によっては、3mmといった更に細い鉗子を使うところもあり、ロボット手術は少しでも小さいキズで手術を行うといった整容面と痛みの面でやや不利な状況です。が、今後の技術革新で5mmや3mmといった細めの多関節鉗子が登場してくるかもしれません。

マリンメッセ福岡から見た博多ポートタワー
マリンメッセ福岡から見た博多ポートタワー

以上、私の考えるロボットでの鼠径ヘルニア手術が広がるための課題です。仮に保険診療が可能になったとしても、日帰りの鼠径ヘルニア手術にまで普及してくるには時間がかかりそうです。助手がいらなくて、3mm鉗子で手術ができるのなら・・・、自分が現役のうちに間に合ってほしいです。

ですが、その前に・・・、

自動車の自動運転のように、AIがロボットを動かし、外科医いらずで手術が終わってしまう時代が先に来ているかもしれませんね。

この記事を書いたのは…

横浜青葉そけいヘルニア・外科クリニック | + posts

2002年山梨医科大学卒業。2008年長野市民病院でTEP法をみて衝撃を受ける。以来、鼠径ヘルニアの理想的な治療はTEP法だと確信して手技の研鑽を積む。2017年8月の開院から全ての手術を執刀。「初診から術後経過まで、執刀した外科医が責任を持って診るべし」が信条。好きな言葉は『創意工夫』

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