先週、近隣の横浜旭中央病院から、筋師健先生が見学に来てくださいました。実は、以前から、筋師先生とは、紹介状でのやり取りがありましたが、実際にお会いできたのは、今回が初めてとなりました。
当院では、腸管が戻らない巨大な鼠径へルニア(いわゆる非還納の状態)は、日帰り手術が困難なため、入院できる施設に紹介しています。以前に紹介させてもらったことがあったのです。
筋師先生は、大腸癌の腹腔鏡手術のスペシャリストで、普段は、難しい直腸癌の手術を担当されているそうです。鼠径へルニアの手術も行っているのですが、横浜旭中央病院の同僚は、多数派のTAPP法を選択している中で、筋師先生だけがTEP法を採用されているそうです。そのため、長野県佐久市の病院に見学に行ったりして勉強されたそうです。
当院のTEPの症例数が多いとのこともあって、わざわざ見学に来てくださいました。
同じTEP法でも、細かい流儀(!?)があり、施設ごとで微妙な違いがあります。共通点は『腹膜前腔から剥離を進めてメッシュを留置する』ことです。少し専門的な視点から分類すると、キズは臍だけか3か所か、腹腔内の観察はするかどうか、剥離に使う鉗子は何を使うか、エネルギーデバイスは超音波か電気メスか、電気メスはモノポーラーかバイポーラーか、ヘルニア嚢の処理は結紮離断か全剥離か、などなど、同じTEP法でありながらバリエーションが多く存在しています。
その中で、当院では、最新鋭の高性能4Kカメラを十分に生かすため、10mm硬性鏡を使用します。そのため、3つのキズでのTEP法を採用しています。その代わりに傷跡が目立ちにくい3mmトロッカーを使用します。3mm鉗子を使用することは単にキズが目立たないだけでなく、繊細な3mm鉗子を使うことで、より細かく精密な操作を可能にします。ヘルニア嚢は結紮したうえで全剥離を行うやり方を標準術式としています。手術開始時と終了時に腹腔内の観察をすることで、反対側のヘルニアの存在の有無、メッシュの展開の確認、予期せぬ腹膜損傷を確認しています。
TEP法は、腹腔鏡下鼠径へルニア手術の中では少数派であります。しかしながら、腹腔内操作がないため腸管損傷のリスクが少ない、メッシュ固定のためのタッキングが必要なく慢性疼痛のリスクが低い、剥離面に局所麻酔を直接散布できるなど、利点が多い手術なのです。
当院の積み重ねてきたTEP法が少しでも役立って、TEP法が広がっていけば、と思っています。
この記事を書いたのは…
2002年山梨医科大学卒業。2008年長野市民病院でTEP法をみて衝撃を受ける。以来、鼠径ヘルニアの理想的な治療はTEP法だと確信して手技の研鑽を積む。2017年8月の開院から全ての手術を執刀。「初診から術後経過まで、執刀した外科医が責任を持って診るべし」が信条。好きな言葉は『創意工夫』