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鉗子と4Kカメラ ~第38回日本内視鏡外科学会に参加(前編)~

12月中旬の木曜日、内視鏡外科学会に参加しました。今年は地元、横浜での開催です。『Nuck管水腫』のミニオーラルセッションの司会での参加となりました。手術の予約が多数入っていましたので、今年も一日だけの参加です。司会は16時からだったので、それまでは、毎年恒例の機器展示巡りを堪能してきました。いつもとは違う1週間となり、いい刺激を受けました。

機器展示のブース巡り

学会参加で、個人的には一番楽しいといっても過言ではないのが、この機器展示のブース巡りです。今回も隅々、廻って、新しいものがないかを確認してきました。消化器外科領域では、ロボット手術が主流になる中、鼠径ヘルニアでのロボット手術の保険適応は厳しい現状があります。日帰りクリニックへのロボットの導入は、さらにハードルが上がるため、今回の学会では、通常使っている鉗子で新たに導入できるものがないか、また各社の4Kカメラに変わりがないか、を重点的に確認してきました。

今回、注目の鉗子とは…

実は、今回の学会が開催される直前に、いつも納品を頼んでいる卸業者さんから、面白い鉗子があるとの情報を聞いていました。
手首の動きに連動して、先端が360度に自由に曲がる鉗子です。事前情報では、止血に使えるエネルギーデバイスは8mmのもの、剥離や把持に使うものは5mmのものがラインナップされているとのことでした。当院では、3mm鉗子での操作が中心で、手技もかなり完成していることもあり、実際の運用で使える場面があるのか、使った方が手術の質が上がるのかを確かめるのが目的です。事前にこういう情報が入っていると、テンションが上がります。
早速、朝一番で展示ブースが混む前に、実際に触ってきました。

LIVSMED社のARTISENTIAL5

実際に触ってみると、自由度が高いため、可動域が広くなり、最初は大きな動きで物体を摘まんで動かしていました。なかなか思い通りにはいかなかったのですが、何分か続けて触っていると、だんだん要領を得てきました。自転車に乗れるようになるのと同じ感覚で、『乗れるようになってしまえば、あとは普通に乗ることができる』とのことですが、実際の手術の現場で使うまでには、ドライラボでの修練が必要になります。
非常に面白い鉗子ではありますが、臨床に導入するにはハードルもあります。1回限りの使い捨て鉗子であり、そのコストは保険請求できないため、病院側の負担になります。私の鼠径ヘルニアの手術は、3mm鉗子を中心とした手術手技で安定した成績をだしているため、現時点で、この鉗子が絶対必要な場面というのは思いつかないのです。しかし、こういった新しい概念の鉗子は、今までとは違う感覚で指先を動かさなければ、思うように動いてくれないので、いい脳トレになると思います。実際の手術で使わないとしても、ドライラボで頭と指先の協調性を鍛えるには、いいツールかもしれません。

3mmの左手鉗子でより良いものはないか

現在、自分が行っているの手術手技では、右手に3mmモノポーラ剥離鉗子、左手に3mm把持鉗子をメインに使っています。必要に応じて右手の鉗子を3mmバイポーラ剥離鉗子、5mm超音波凝固デバイス、5mm持針器などを持ち替えて行っています。
今回、この左手部分に3mmバイポーラ把持鉗子を導入できないかと考え、国産の平和医療器械、ドイツのStorzの3mmバイポーラ把持鉗子を確認してきました。3mm鉗子はどうしても華奢な造りになるため、耐久性の問題がついて回ります。これは、実際に使ってみて評価するしかないため、製品のデモを依頼してきました。

4Kカメラに新しい動きはあるのか

4Kカメラでは、新しい動きがないかを確認してきたのですが、Olympus、Storz、Stryker、アダチのラインナップに変化はありませんでした。
2024年から近赤外光の機能を搭載して再び外科領域に参入してきたArthrex。Artthrexは整形外科の関節鏡をメインに販売しています。2016年にOlympusについで2番目に4Kカメラを導入した会社です。当時としては珍しく光学ズーム搭載した4Kカメラで、私が2017年にクリニックを開院の際に、導入するかどうか、Olympusとどちらにするか最後まで迷った経緯があり、よく覚えています。一時期は外科領域の4Kカメラのプロモーションを止めていたようですが、近赤外光の機能を搭載した新型モデルで戻ってきました。
一方で、FUJI FILMが新たに腹腔鏡の4Kカメラ市場に参入するとのことで、会場に展示されていました。FUJI FILMの腹腔鏡4Kカメラは数か月前に認可を取ったばかりで、これから販売に向けて、価格などを調整するとのことでした。最大の特徴は、5種類のLED光源を組み合わせて、組織を照らすことで、組織の血流の状況を把握できる機能がついているとのことです。組織の血流が把握できる装置としては、近赤外光を当てて血流を確認できるシステムが既に普及しておりますが、薬剤を静脈注射しなければならないため、確認するタイミングが限られたり、薬剤アレルギーの方には使用できないという制限があります。新しいFUJI FILMのシステムでは、薬剤を静注することなく、特殊な光を当てるだけで血流を検知できるため、簡便さとアレルギーの方でも使用できる利点があります。今後、主流になっていく技術かもしれません。
4Kカメラ自体の基本的な性能に大きな変化はなかったようです。個人的には、4Kカメラ自体の基本性能の向上を期待しています。しかし、開発の方向性がメーカーごとに異なっています。小型イメージセンサーで軽量化に向かうStryker、大型イメージセンサーで画質を追求するOlympus、この2社は真逆の方向に向かって走っています。何とか自分好みの方向に開発してくれないかと、期待ばかりが高まるのですが、なかなか思うような製品がでないため、もどかしい限りです。メーカーさんに自分好みのカメラを作ってもらうべく、カメラのウンチクについて、またいずれブログで書ければと思っています。

『Nuck管水腫について』の後編を 近日公開(?)予定です

この記事を書いたのは…

横浜青葉そけいヘルニア・外科クリニック |  + posts

2002年山梨医科大学卒業。2008年長野市民病院でTEP法をみて衝撃を受ける。以来、鼠径ヘルニアの理想的な治療はTEP法だと確信して手技の研鑽を積む。2017年8月の開院から全ての手術を執刀。「初診から術後経過まで、執刀した外科医が責任を持って診るべし」が信条。好きな言葉は『創意工夫』

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