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導入して半年の光源装置にエラーが点灯
先日、購入して半年のStrykerの4Kカメラシステムの光源に初期不良が発生しました。
再起動すれば、すぐに動いていたのですが、エラーマークが出ていたため、念のために点検に出すことになりました。手術開始前の立ち上げのときだったため、予備器のOLYMPUSの光源に切替えて、滞りなく手術を開始しています。
当院のカメラシステムは、同じタワーにStrykerとOLYMPUSの2セットの4Kカメラシステムが載っており、それぞれ独立して使用することが可能です。カメラシステムは、4Kカメラヘッド、プロセッサー、光源装置から成り立ちます。つまり手術中に機器トラブルがあったときに、カメラを接続して、スイッチをオンにするだけで、すぐに手術を再開できます。もちろん、2セットの4Kシステムは独立して動かせるので、同時に2セット使うことも、今回のように光源だけをOLYMPUSのもので代用することも可能です。
予備器の重要性を痛感した出来事
この予備の器械というのは非常に重要だと考えています。以前勤めていた病院で、一体型フレキシブルカメラの不具合があったのですが、予備器を持っていませんでした。1件目の手術終了間際に不具合が発生したため、ギリギリその手術を終えることができたのですが、続く2件目の手術が開始できない状況でした。メーカーからの代替品の到着は翌日以降になるとのことで、手術の中止も考えましたが、運よく、系列の病院から、たまたま使っていなかった同じカメラヘッドを取り寄せて対応することができたので、開始時間が数時間遅れることで事態は収拾しました。その時に勤めていた病院は、大きなグループ病院だったので系列で協力し合うという体制をとっていたのです。近隣に系列病院が多数あるため、複数の病院で使っていないときに融通しあえばいい、という考え方だったのだと思います。確かにこの考え方も理解できます。しかし、近隣の病院がその器械を必ず使っていないとは限らないので、外科医の立場から申し上げますと、予備器は必ず持っていた方がよいと考えています。そういった苦い経験もあり、自分で立ち上げたクリニックには、以前から2セットの高性能カメラシステムを所有しています。
![DSC01147_400x600 腹腔鏡タワー](https://y-hernia.com/yhernia/wp-content/uploads/2024/11/DSC01147_400x600.avif)
同じタワーに2セットの4Kカメラシステムを設置
2024年3月までは、OLYMPUS VISERA 4K UHD の2台体制だったのですが、その間に予備器を使用したことは2回あります。カメラヘッドをつなげる本体のプロセッサー部分のエラーが点灯し、映像が映らなくなるという事態でした。この時は、器械を載せているタワーには1セット、バックヤードに予備器を置いていたため、手術を中断して、器械を乗せ換えに15-20分ほど要しました。乗せ換え後は、通常通りに再開できたため、事なきを得ました。しかし、手術は20分弱の中断を余儀なくされるため、2024年4月のStryker 1788を導入にともない、予備器のOLYMPUSも同じタワーにおいて、スイッチ一つで切り替えができるようにしました。
腹腔鏡セットを載せるタワーには、最上段からモニター、気腹装置、カメラプロセッサー、光源、録画装置などが順に配置されています。全部置いてもスペースに少し余裕がありますが、2セットの機器を置けるほどではないのです。そのため、2セットのカメラ装置をタワーに載せるには、何かを降ろさなければなりません。当院の気腹排煙装置は、AirSeal と Crystal Vision 450D を使っています。こちらの器械を、腹腔鏡のタワーとは別に配置することで、2セットの4Kカメラ一式を同じタワーに載せることができるのです。
カメラシステム以外の予備は?
4Kカメラは電気製品であるので、突然の不具合に見舞われることがあります。特に最近のカメラシステムは高性能化しているため制御も複雑になっていることもあり、急な不具合で動かなくなる懸念が常につきまといます。そのために予備器を持っていることが重要になるのですが、カメラ以外にも故障が発生するリスクがあります。
システムの中でも、比較的構造が単純で「まず壊れないだろう」と言われているのが、光源と気腹器です。確かに、今まで20数年、手術に携わっていますが、腹腔鏡の光源や気腹器が故障した話は聞いたことが無いです。しかし、光源を例に挙げると、以前の光源は、キセノンランプを使用していました。キセノンランプは、白熱球のように突然切れてしまうことはありませんが、長い時間使っていると光量が落ちてくるので、500時間を目安に交換が推奨されています。最近の光源には、LEDが使用されています。LEDランプは光量の減衰はなく、10年間交換不要と言われていますが、家庭用のLED電球で、1-2年で突然、点灯しなくなり交換したという話はよく聞きます。これは発熱量が少ないといわれているLEDランプでもそれなりの熱を持つため、内部の集積回路がその熱で故障してしまうからと考えられています。突然につかなくなるリスクがあるLED光源には、カメラシステムの高性能なプロセッサー同様、バックアップのための予備器が必要と言えます。実際に、今回は、壊れないだろうといわれていた光源にエラーが出ています。LED光源だけに油断は禁物です。
![DSC01134_600x400 炭酸ガスの切替器](https://y-hernia.com/yhernia/wp-content/uploads/2024/11/DSC01134_600x400.avif)
気腹器は故障よりもガス切れが心配
「まず壊れない」と言われているもう一つの器械、『気腹器』ですが、実はこちらにも予備器を用意してあります。ガスボンベから供給される炭酸ガスの流量をコンプレッサーを使って調節するという比較的シンプルな構造のものなので、壊れる可能性は確かに低いです。しかし、壊れることも怖いのですが、気腹器で一番怖いのが「ガス切れ」です。現在、AirSealには2本の炭酸ガスのボンベを繋ぎ、切替器を使用して適宜切り替えています。2本の切替式でない場合だと、無くなる度に1本ずつ交換するという作業が発生するので、ボンベ交換のたびに手術が中断してしまうのです。手術中の繋ぎかえを避けるため、2本のボンベを接続して切替式にしています。ただ、いくら2本のボンベが繋がっていても、無くなったボンベの交換を忘れてしまうと意味がありません。もう1本あると思っていたら、空だったなんてことも起こりうるのです。この交換を忘れてしまった場合は、手術中にボンベ交換の作業を行わなければならなくなります。手術が5分ほど中断してしまうのです。
これを避けるために、当院ではもう一台別の気腹器に、もう1本別の炭酸ガスを接続して、同じ台に載せています。万が一の「ガス切れ」でも送気チューブの繋ぎかえだけで対応ができるので、手術の中断が最小限になります。さらに「ガス切れ」だけでなく、「まず壊れない」と言われている気腹器の故障にも対応できます。予備の気腹器につないでいたボンベを使用した場合は、手術後にメインの気腹器につなぎ替え、予備器には未使用のボンベを新たにつなげます。常に未使用のボンベが予備器につながっていることになるので、万が一の事態のときの「ガス切れ」を防げます。
![DSC01137_600x400 2台の気腹器と3本の炭酸ガス](https://y-hernia.com/yhernia/wp-content/uploads/2024/11/DSC01137_600x400.avif)
さらなる懸念事項を挙げるとすれば、「予備の予備」がないのが心配ですが、さすがにそこまでは・・・。
普段から、予備器がすぐに使える環境を整え、定期的に起動させてみる。普段の管理が大切になります。非常時に、肝心の予備器が故障していたなんて事態を避けるしかありません。
ちなみに、超音波凝固切開装置は・・・
・・・予備の予備まであります。
この記事を書いたのは…
2002年山梨医科大学卒業。2008年長野市民病院でTEP法をみて衝撃を受ける。以来、鼠径ヘルニアの理想的な治療はTEP法だと確信して手技の研鑽を積む。2017年8月の開院から全ての手術を執刀。「初診から術後経過まで、執刀した外科医が責任を持って診るべし」が信条。好きな言葉は『創意工夫』