Contents
新機種『Stryker 1788』
4年ごとに新機種を投入するStryker
2024年1月にStrykerから新モデル『1788』が発売されました。当院は2024年4月に導入しています。
Stryker社のカメラは、昔から画質に定評がありました。さらに新モデルを4年毎に出していて、新技術の導入に積極的です。前回、2019年に発売された1688は、当院の機器更新のタイミングと合わなかったのですが、今回の1788の発売は、ちょうどタイミングが一致しました。
Stryker 1788は、最新の技術が投入されているモデルであり、基本性能は、解像度3840x2160、4:4:4 YCbCr 10bit、60p、BT.2020、HDR(HLG)とスペックだけ見ても実力が高いことが伺えます。
腹腔鏡の映像というのは、昔から各メーカーで色合いの味付けが微妙に異なっているのです。自分の個人的な見解では、Olympusが赤が濃くてやや青みがかったシャープな映像、Storzが赤と黄色が柔らかく温かみのある映像、Strykerが黄色と青が特徴的なシャープな映像という印象があります。これは単にイメージセンサーの性能だけではなく、組み合わせる硬性鏡の性能、術野を照らす光のスペクトルにも左右されます。
OLYMPUS VISERA 4K UHD との比較
モニターへの出力は、HDMI(2.0b) 2系統のため、変換器を使用せずに、当院の大型モニターに接続できました。モニターは3840x2160、4:4:4 YCbCr 10bit、60p、BT.2020、HDR(HLG)の全てに対応しているため、高画質の映像が映し出されました。
前モデル
OlYMPUS VISERA 4K UHD 2015年12月発売 |
新モデル
Stryker 1788 2024年1月発売 |
|
解像度 | 3860x2160 | 3860x2160 |
フレームレート | 59.94fps | 60fps |
ビット深度 | 10bit 4:2:2 | 10bit 4:4:4 |
色域 | 専用モニターでBT.2020相当
(映像信号はBT.709) |
BT.2020 |
輝度 | SDR | HDR(HLG) |
出力端子 | Quad-link 3G-SDI 2系統 | HDMI(2.0b) 2系統 |
カメラヘッド | 280g
auto focus CMOS サイズ非公表 |
重量不明
manual focus CMOS 1/2.8インチ |
光源 | キセノンランプ | LEDランプ |
比較の表で見ると、ビット深度、輝度に明らかな差がでています。
「映し出された映像が綺麗かどうか」が一番大事なポイントですが、今まで見た手術映像の中で、一番きれいな映像でした。鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術の質を上げてくれるデバイスだと確信したため、採用することになりました。
65インチと大型モニターに拡大した映像でもざらついた感じやボケがなく、クリアに映し出されたのが印象的でした。BT.2020 + HLG の映像は、色の主張が強すぎず、自然な感じに見えました。BT.2020は色が強く出すぎて、かえって見づらくなることもあるのですが、とにかく、細かいところまではっきりと視認できて、発色も鮮やかすぎることなく、見やすい色合いでした。
OLYMPUS と Stryker の「絵」の違いは?
OLYMPUS と Stryker の「絵」の違いは、①赤(やや青より)系統の色の使い方 ②輪郭強調 に大きな差を感じました。
OLYMPUS の特徴
OLYMPUSは、すべての臓器を色鮮やかに見せ、境界は少しぼやかすことで、絵的には非常にきれいに見せています。青寄りのシアン系の色が強く表現することで、腹膜のピンク、精管と血管の青み、筋肉の赤みを表現しています。画像は焦点のあっていない画面外れまで比較的綺麗に映りますが、全体的にはやや暗く映ります。VISERA 4K UHDは、このバランスが比較的良かった(暗所の表現力が低かっただけかもしれません)のですが、後継のVISERA ELITE Ⅲは色の一つ一つが強すぎて、鮮やかになり過ぎた感じがしました。またHDR機能が搭載されていましたが、VISERA ELITE Ⅲでは、HDRのONとOFFでの違いが分かりにくかったです。
Stryker の特徴
Strykerは、組織の赤みを抑えて、脂肪の黄色を強調することで、出血の赤を際立たせています。組織全体は薄く白っぽく映るのですが、腹膜と脈管は白っぽく、筋肉の赤はやや薄く、脂肪の黄色が際立ち、そして出血の朱色がとにかく目立ちます。TEP法では腹直筋と腹直筋後鞘の間にカメラを進めていくのですが、この時に見える腹直筋の色合いが、実際の目で見ているような薄めの赤でうまく表現されている気がします。また、焦点の合っている画面中央の近接した映像は、素晴らしく綺麗です。逆に遠景から全体を見るような場面では奥行き感が乏しく、映像がややのっぺりとした感じになります。HDRのONとOFFで、はっきりと違いが判り、特に暗い部分と明るい部分が同時に映る場面では、HDRの効果がはっきりと確認できました。HDRの影響で画面全体が明るくなっているので、画面の外側寄りまで暗くならず、はっきり見える分だけ、映像がやや落ちるように見えてしまうかもしれません。
Stryker 1788 の「色合い」は?
Stryker 1788の特徴は、色調整が自在にできることです。設定できるパラメーターが多彩なため、おそらくOLYMPUSと同じような「色合い」を出すことも可能です。最初は、OLYMPUSの「色合い」を再現して使おうかと思いましたが、結局は初期設定から大きく変えることはせずに、推奨設定から輪郭強調を少し弱めた設定で使っています。この「色合い」に開発者が考える理想の手術映像があるのではないか、と思っています。
Stryker 1788の「色合い」には、出血の朱色とまわりの組織を明確にする意図が感じられます。そのため、出血の赤と脂肪組織の黄色が特に強調され、シアンなどの青系の成分を弱めているのかもしれません。またHDRがよく効いているため、画面に赤が増えてきても暗くならずに、全体を明るく保ったまま手術ができます。ただし、画面に赤が増えてくるとノイズが強くなるのか、全体の画質が落ちていく気がします。逆にOLYMPUS VISERA 4K UHDでは、ノイズが強くなるというよりは、画面全体が暗くなり見えづらくなります。この辺りのデジタル処理技術の違いが、最新機種の特徴かもしれません。
鼠径ヘルニアの手術では…
鼠径ヘルニア手術の場合だと、通常の症例では出血がほとんどでないため、わずかな出血でも際立つため、すぐに止血を行うので全体の出血量がさらに減った気がします。しかし、鼠径ヘルニアの手術といえど、長年放っておいて大きくなってしまったり、嵌頓まではいかないものの出入りを繰り返し痛みが強い症例では、炎症や癒着によって通常よりも出血しやすいため、画面全体の中の赤色が増えます。こういったときにStryker 1788は、暗くならずに全体が明るく、よく見えます。
もう一つ、鼠径ヘルニアの手術で特徴的なのは、手前から骨盤方向の奥に向かって見下ろす視野になることです。画面4時方向右手前の腰骨付近から、12時方向の鼠径管、10時方向のクーパー靭帯から恥骨結節に向かって、緩やかな傾斜が存在しています。この時にどこにカメラのピントを合わせるかで映像に違いが出ます。同じ画面の中でも奥行きに幅が出てくるのです。
Stryker はイメージセンサーが小さめ
気になっている点は、小型イメージセンサーの影響です。Strykerは、前モデルの1688、現行モデルの1788ともに、1/2.8インチと比較的小さいイメージセンサーを使っています。一般的には、イメージセンサーが大きいほど映像がきれいになるといわれていますが、この辺りの影響がどれだけでているのかがわかりません。しかし、感じている印象は、奥行きのない場面で接近する映像は素晴らく綺麗ですが、奥行きがあるときに全体を映す場面では、ボケを作らずに全体を映せる代わりに奥行き感がつぶれたもやっとした映像になっている気がします。この辺りが大きめのセンサーを使っているOLYMPUS VISERA 4K UHDとの違いだと思います。VISERA 4K UHDは、センサーサイズは非公表ですが、カメラヘッドの大きさと2014年~2015年の開発年から予想して、おそらく1/1.8~1/2.1ぐらいのセンサーを使っているのではないかと思います。そのため、奥行きのある場面では、奥まった部分に適度なボケができて、画面中央が際立って見えます。自分の手術では、全体を観察するシーンももちろんあります。しかし細かい操作をするときは、カメラをギリギリまで近づけて、なるべく奥行きを作らない視野を出しています。こうすることで、小さいイメージセンサー特有の遠景でのつぶれ感は気にならなくなります。
究極の腹腔鏡カメラは?
OLYMPUS と Stryker、二つの違う特性を持った4Kカメラを使ったことで、映像と手術の関係の奥深さに触れられた感じがします。画質の良さだけを追求するならば、一眼レフカメラのような35mmの大きなイメージセンサーを持つカメラに硬性鏡をつなげて手術をすれば、細部のこまかい線維まで綺麗に見れる映像になるのだと思います。しかし手術場では、大きなカメラは取り回しが悪くなるため、小型軽量の扱いやすさが求められます。手術用の4Kカメラに大型イメージセンサーの採用しにくいのは、取り回しの問題があるからです。それでも、できるだけ大きなイメージセンサーを使った性能のいいカメラで、細かな線維の1本1本まで再現するような綺麗な映像で手術をしたいと思ってしまいます。
現状の汎用モデルの最先端であるStryker 1788で手術を行うようになり、おおむね満足しております。しかし、理想をいえば、「もう少し大きめのイメージセンサーを搭載したら、どれほど綺麗な映像になるのだろうか」と興味が尽きないです。
手術の質を上げるため、これからもよりよいカメラを導入していきたいと思います。