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鼠径ヘルニア(脱腸)は、どうやって治すのか
治療法を大きく分けるとメッシュを使うか、使わないか
鼠径ヘルニアは、どうやって治すのか、という話をします。大きく分けるとメッシュを使うかどうかで、①組織修復法、②メッシュ法があります。現在はメッシュを使って治す方法が主流になっています。メッシュはポリプロピレンという素材でできています。メッシュを使うメリットは再発率が低いこと、術後のキズの痛みが少ないことです。
再発率が低いのが、メッシュを使う利点
再発については、0.5~1%しか再発しないと言われています。30年ぐらい前(1990年代前半まで)は、メッシュが使われていなかったのですが、メッシュを使わない手術の再発率が10%ほどで、長期的にみると30%再発するとも言われていました。メッシュを使う使わないで、再発率が10倍以上の差がでているので、現在はメッシュを使って治す手術が主流になっています。
メッシュの弱点は・・・
メッシュの弱点に細菌感染があります。メッシュに雑菌がついてしまうと、人工物のメッシュの部分で菌が繁殖して、雑菌の塊になってしまうので、再手術でメッシュごと取り除く必要があります。メッシュ感染は0.1%以下の確率で起こると言われています。通常の普通の免疫力の方は、ほとんど感染は起こさないです。まったくのゼロではないですが、ほとんどゼロに近いです。感染がおこりやすいと言われているのが、糖尿病のコントロールが悪くて免疫力が落ちている方、免疫を抑える薬(ステロイドなど)を内服されている方に、メッシュ感染がおこりやすい傾向があると言われています。しかしながら、もともとメッシュ感染の発生率が極めて低いため、鼠径ヘルニアの手術でメッシュを使って治すのは、現在では標準的な治療になっています。
術後の痛みが少ないのもメッシュを使う利点の一つ
術後のキズの痛みについては、メッシュを使わない治し方では、鼠径ヘルニアの原因となっている組織の隙間を糸で縫い縮める方法をとるため、縫い寄せた部分に緊張が強くなり、術後のキズの痛みが強くなるといわれています。近年の日帰り手術が可能になっている理由の一つとして、メッシュを使うことによって組織の緊張がかからない修復ができるようになったことも挙げられます。
鼠径部切開法と腹腔鏡手術
アプローチ方法の違いで、鼠径部切開法と腹腔鏡手術に分類される
メッシュを使う手術方法でもアプローチ方法の違いで、鼠径部切開法と腹腔鏡手術の2種類があります。①キズの大きさ、②メッシュを当てる位置、③手術時間、④費用、⑤術後のキズの痛み、が違います。鼠径部切開法では、鼠径部を4~5cm切開して、出ている穴に到達します。詰めるタイプのメッシュを詰めて、シート状のメッシュで抑える方法(メッシュプラグ法)が、日本では広く行われている術式になります。
鼠径部切開法(メッシュプラグ法)
腹腔鏡の場合は、お腹の中にカメラを入れます。厳密にいうと、TEP法では、腹膜の1層外側の腹膜前腔というスペースにカメラを挿入します。この腹膜前腔を広く剥離して、筋肉と腹膜の間の層に広くメッシュを当てます。鼠径部切開法では、主に筋肉の上の層にメッシュを当て、腹腔鏡手術では筋肉の下の層にメッシュを当てるため、メッシュで補強する位置が、違うのです。
腹腔鏡手術(TEP法)
この下の図が鼠径ヘルニアを腹腔鏡で手術している図になります。臍からカメラを入れて骨盤を見下ろすように見ています。恥骨があって、腰骨があって、恥骨と腰骨の真ん中やや外側から、壁を貫く深い穴(鼠径管)が斜めに開いています。この鼠径管に腹膜が引き込まれたのが、外鼠径ヘルニアになります。下の図は、鼠径管から腹膜を引き抜いたところで、メッシュを当てる直前の図になります。
実は3種類ある鼠径部のヘルニア
鼠径部のヘルニアには3種類あるのです。飛び出る穴によって、3つに分類されます。①外鼠径ヘルニア、②内鼠径ヘルニア、③大腿ヘルニアです。
外鼠径ヘルニア
一番多いのが「外鼠径ヘルニア」で、精索や子宮円靱帯に沿って腹膜が飛び出るタイプです。男性の7割、女性の7割が外鼠径ヘルニアで、子供の頃に発生するヘルニアは99%以上が、この外鼠径ヘルニアと言われています。
内鼠径ヘルニア
続いて、「内鼠径ヘルニア」の説明をします。先ほどの外鼠径ヘルニアの内側の壁の部分(横筋筋膜)は、もともと少し薄くて弱いのですが、この壁の部分が、鼠径管のトンネルに向かって、壁ごと押し出されて飛び出てしまうのが、内鼠径ヘルニアです。男性の3割、女性の1割がこの内鼠径ヘルニアです。壁が弱くなって起こるタイプで、加齢とともに増えてくるタイプです。
大腿ヘルニア
「大腿ヘルニア」は、足に向かって太い血管が通っている隙間(大腿輪)が開いているのですが、この隙間から腹膜が飛び出てしまうのが大腿ヘルニアになります。男性だと1%以下、女性の2割がこの大腿ヘルニアになります。
全て塞げるのが、腹膜前腔にメッシュを敷くメリット
こういったヘルニアの原因になる穴を、全て覆うことができるのが筋肉の下の層にメッシュを敷くメリットです。当院では腹腔鏡を使って、筋肉と腹膜の間の層にメッシュを敷きます。鼠径部切開法の場合ですと、実はメッシュが全部当たらなくて、内鼠径ヘルニアの内側の一部の隙間と大腿ヘルニアの隙間は覆いきれないので、再発のリスクが少し上がります。筋肉と腹膜の間の層にメッシュを敷いた方が、鼠径部のヘルニアの原因となる3つの穴を塞ぐことができるため、理想的な治し方と言えます。
鼠径部切開法でも腹膜前腔にメッシュを敷く術式もある
実は、鼠径部切開法でも筋肉の下の層にメッシュを敷く方法があります(Kugel法、Direct Kugel法)。もう少し深く切って、腹壁と腹膜の間の層を剥がして、押し込むようにメッシュを広げれば、鼠径部切開法でも筋肉と腹膜の間の層にメッシュを敷くことができます。ただし、当院で行わない理由は、キズが深くなるので少し痛みが強くなる可能性と、奥に押し込むようにメッシュを広げていくため、メッシュの広がりを確認できないので、当院では筋肉と腹膜の間の層にメッシュを敷くのはカメラで確認ができる腹腔鏡手術で行い、腹腔鏡が使えない事情がある時は、腹膜前腔に入らない鼠径部切開法(Mesh&Plug法、Lichtenstein法)で治しています。