鼠径ヘルニアの最大の特徴は、鼠径部が飛び出たり、戻ったりすることです。 最初に気づく大きさは2~3cmぐらいのことが多いです。 飛び出ているときは柔らかくぷにゅっとしています。 押すと比較的簡単に戻ります。 横になると引っ込みます。 膨らんでいるのは、腹壁という壁の隙間から、腹膜というポケット状の膜が飛び出ているのですが、このポケットに入り込んだ腸管が、膨らみの原因であることがほとんどです。 腸管が入り込んでいるので、「ぴちゃぴちゃ」と水の流れる音、「ポコポコ」とガスの動く音が聞こえることもあります。
【違和感や痛み】有るか、無いか
痛みがでることもあれば、出ない時もあります。 その理由は、鼠径ヘルニアの痛みの原因は、隙間から飛び出た腸が、挟まれて圧迫されて起こるからです。 つまり、飛び出ているときに症状が出るので、立っているときや腹圧がかかっているときに痛みや違和感が出て、横になったり安静にしているときは症状が消えます。鼠径ヘルニアの原因は、腹壁の隙間から飛び出た腹膜(ヘルニア嚢と呼ばれています)に腸管が入り込むことで、体表から膨らんで見えます。 この隙間は「鼠径管」という名前が付いています。 鼠径管は比較的狭い隙間のため、この中に腸管が入り込んだときに、歩いたり走ったりして、太腿を動かすと、鼠径管というトンネルがつぶされて狭くなるので症状が出るのです。 また重いものを持ったり、力仕事をしたり、くしゃみ・咳をして腹圧がかかると、お腹の内部から圧力がかかるため、狭いトンネルに入っている鼠径管に腸管が押し出されるので、違和感や痛みが発生します。
この鼠径管の隙間の狭さや長さ、中に入っている腸管の量、歩いたり走ったりした時の鼠径管のつぶされ方、腹圧のかかり方が合わさって、違和感や痛みといった症状が出るのです。 挟まれ方次第で症状が違うので、人によっては、飛び出ていても全く症状がない人もいれば、膨らみは目立たないけど違和感や痛みが強い人もいます。
違和感や痛みといった症状は、鼠径ヘルニアの大きさや放置している期間とは無関係で、個人によって異なるのです。
【午後から夕方にかけて】違和感や痛みが強くなる・・・
鼠径管は、細くて長いトンネル状の隙間です。初期の鼠径ヘルニアでは、まだこのトンネルの直径が小さいこともあり、立ち上がってもすぐに飛び出てこないこともあります。しかし、一日立ち仕事をしている方は、少しずつ膨らんできて、違和感や痛みが強くなってくる。よく聞く典型的な症状です。腸管は、ぐにゅぐにゅと伸び縮みをすることで、内容物を進めていきます。この腸管のぐにゅぐにゅとした伸び縮みする運動のことを「蠕動(ぜんどう)」と呼びます。蠕動することで、狭い鼠径管の中に、ゆっくりと、にゅるにゅると腸管が入っていくのです。そのため、午前中は調子が良いけれども、午後から夕方にかけて違和感や痛みが強くなる、こういった症状が出るのです。
夜、就寝した後はどうなるでしょうか。仰向けで寝ると、腸管は重力で背中側に落ちます。先ほどの狭い鼠径管に入り込んでいた腸管も、寝ているときも蠕動しています。むしろ寝ているときの方が蠕動は活発になります。一晩寝ている間に鼠径管から抜けるので、朝起きたときは、膨らみも違和感もないのです。
【危険】めちゃくちゃ痛い、膨らみっぱなし、横になっても戻らない
腸管が嵌って抜けなくなり、締め付けられてしまうことを「嵌頓」といいます。「嵌頓」してしまったときは危険です。腸管への血流が途絶えるので腐り始めているため、痛みがすごく強いです。「嵌頓」の発生率は低く、鼠径ヘルニアを放っておいていても滅多に起こることはありませんが、「嵌頓」になった場合は、速やかな治療が必要になります。すぐに救急車を呼んで、緊急対応が可能な病院を探してもらわなければなりません。
膨らみっぱなし、横になっても戻らない、さほど痛くない
鼠径部が膨らみっぱなしで、横になっても戻らない。この場合は、鼠径ヘルニアであることもありますが、鼠径ヘルニアでないこともあります。見分け方の一つとして、膨らみの大きさがポイントになります。
〔10mm以下〕 ほとんどがリンパ節腫大
飛び出たり戻ったりしない。横になっても起きていても変わりなく腫れている。硬くてコリコリして押すと少し痛みがある。1個だけのこともあるが、2~3個触れる時がある。片側だけでなく両側に同じような小さいシコリがある。
こういった場合はほとんどがリンパ節の腫大です。感染や炎症で一時的に腫れること多いです。通常、2~3週間で小さく目立たなくなってきます。気になって常に触って刺激をしていると、なかなか小さくならないこともあります。
1か月以上腫れが続く場合は、精査が必要になるため、内科もしくは血液内科の受診が必要になることもあります。めずらしい感染症や、リンパ節自体が腫れてしまう病気、骨盤内の臓器の悪性疾患の転移などがあるため、長期に腫れが続く場合は要注意です。
〔10~20mm〕皮膚が赤黒く変色 粉瘤のことが多い、感染しているケースも
以前より小さいシコリがあったが、数日から1週間以内から急に腫れてきた。この場合は、感染性粉瘤の場合が多いです。20mm以上の大きさになることもしばしばあります。
粉瘤とは、皮下に袋状の組織ができて、その中に皮脂や垢がたまった良性腫瘍です。コリコリしたシコリで触れることが多いですが、ときどき粉瘤が感染することがあり、その場合はシコリが急に大きくなり、痛みが増して、皮膚が赤く腫れてきます。場合によっては皮膚が割れて中からドロッとした膿が出てくることがあります。
粉瘤は、皮膚科や形成外科で対応してくれます。大きさにもよりますが、局所麻酔で切除することがほとんどです。
〔20mm以上〕皮下腫瘤が多いが、鼠径ヘルニアであることも
この場合は、皮下腫瘤と鼠径ヘルニアの鑑別が必要になります。皮下腫瘤は「脂肪腫」のことが多いです。エコー、CT、MRIで画像検査で診断します。「脂肪腫」以外の珍しい腫瘤の場合もあるため、画像診断が重要になります。
鼠径ヘルニアの場合だと、ヘルニア嚢内に「大網」という脂肪の膜状の組織が入り込んでいる場合があります。「大網」は胃と横行結腸から垂れ下がる脂肪の膜状の組織で、血流が良く免疫機能が発達しています。そのため、虫垂炎などの炎症がお腹の中で起こった場合、炎症の起こった部位を包み込んでくれて炎症が広がらないように働きます。鼠径ヘルニアの場合は、大網が飛び出ているヘルニア嚢内に先回りして入り込みます。ヘルニア嚢の隙間が充填されるため、典型的な飛び出たり戻ったりすることがなくなり、膨らみっぱなしになります。痛みを伴うことは比較的少ないですが、大網は胃や横行結腸とつながっているため、上腹部が引っ張られるような違和感がでることもあります。
一般外科・消化器外科を受診をして、まず診断を行うことが大事になります。
〔女性の戻らない膨らみ〕ヌック管水腫であることも
女性の戻らない膨らみは、ヌック管水腫の場合があります。
鼠径ヘルニアの発生する原因は、胎生期に男性は精巣、女性は子宮の円靱帯が鼠径管の中を通って、男性は陰嚢内、女性は恥骨付近の皮下組織に到達します。この時に、腹膜が引き込まれてできたのが「ヘルニア嚢」です。この腹膜が引き込まれているのですが、引き込まれ具合に個人差があります。生まれつき大きく引き込まれている人は、小学生ぐらいまでに手術することがあります。加齢や力仕事、立ち仕事で後天的に鼠径管が開いて飛び出てくることもあります。まったく引き込まれていない人もいます。個人差が大きいです。
ヌック管水腫は、引き込まれていた腹膜が、腹腔側で閉じてしまって完全な「袋」となり、その中に水が溜まって腫れてしまう病気です。飛び出た腹膜を処理する手術になるので、鼠径ヘルニアと同じ手術で切除できます。鼠径部切開法では、腹腔側の鼠径管の太さによって、修復にメッシュが必要かが決まります。腹腔鏡で切除する場合は、メッシュを使用して治します。
ヌック管水腫は、鼠径ヘルニアとほぼ同じ手術になりますので、消化器外科を受診します。しかし、腹腔鏡で治療できるところは少ないので、受診した際に確認することが大事です。
膨らみはないが、痛みがある
鼠径部に膨らみはないけれど、痛みがある。この場合は、初期の鼠径ヘルニアの可能性がありますが、鼠径ヘルニアではないことも多いです。
まとめ