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ヘルニアとは?
「ヘルニア」とは、正しい場所から、はみ出てしまうという意味です。「ヘルニア」という名前から連想するのが、腰のヘルニア=「椎間板ヘルニア」が一番多いと思います。背骨を構成する椎骨と椎骨の間の椎間板が押し出されて飛び出てしまい、腰痛の原因になる病気です。
この「ヘルニア」は全身のいろいろな場所にできるのです。「ヘルニア」の名前が付く病気は、頭から足に向かって、脳ヘルニア、食道裂孔ヘルニア、椎間板ヘルニア、内ヘルニア、腹壁ヘルニアなどがあります。しかし、この中で隙間から飛び出たものを体の表面から直接触ることができるのが、腹壁ヘルニアなのです。
腹壁ヘルニアには種類があって、鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア、臍ヘルニア、白線ヘルニア、腹壁瘢痕ヘルニア、半月状線ヘルニアなどがあります。そして、この腹壁ヘルニアの中で最も多いのが、鼠径部が膨らむ「鼠径ヘルニア」なのです。
鼠径ヘルニアとは?
鼠径部とは足の付け根の辺りを指します。鼠径部の辺りに、ピンポン玉(2-3cm)ぐらいの膨らみができて、気づくことが多いです。鼠径部から、内臓の臓器(腸が多い)が飛び出して膨らんだ状態なのです。腸管が飛び出ることが多いため、昔から「脱腸」と呼ばれることも多いですが、「脱腸」は通称で、正式な病名ではありません。鼠径ヘルニアの症状は、立ったときに膨らんで、横になると元に戻るのが最大の特徴です。違和感や痛みを伴うこともありますが、無症状のこともあります。
鼠径ヘルニアの症状は?
鼠径部が立った時に膨らみ、横になると引っ込んでしまう、膨らみの大きさはピンポン玉(2-3cm)ぐらいで気づくことが多いです。この膨らみは、柔らかく、押すと簡単に引っ込みますが、離すとまたすぐに膨らみます。「腸」がでていることが多いので、「ぴちゃぴちゃ」「ぽこぽこ」など、皮膚越しに水やガスが通る音が聞こえることもあります。痛みや違和感を伴うこともありますが、膨らむだけで無症状のことも多いため、病院を受診せずに様子を見る人もいます。
鼠径ヘルニアの症状は、鼠径部が立つと飛び出て、横になると引っ込む、これが最も典型的な症状です。午前中は調子が良いけど、午後から夕方にかけて、違和感や痛みが徐々に強くなる場合、腹圧がかかったときに症状が増す場合は、鼠径ヘルニアである可能性が高いです。戻らない10mm以下の腫れはリンパ節腫大、20mmまでは粉瘤、20mm以上の戻らない腫れは画像検査で診断します。
また、膨らみを確認できない場合でも、鼠径ヘルニアの可能性があります。鼠径部が膨らんではいないけど、突っ張り感、違和感、内臓を引っ張られるような不快感などを自覚する場合は、ごく初期の鼠径ヘルニアの可能性があります。
鼠径ヘルニアの原因は?
鼠径ヘルニアの原因は、筋肉の隙間にある「鼠径管」と呼ばれるトンネル状の隙間から飛び出たり、「鼠径管」の壁自体が弱くなって押し出されて、膨らみます。生まれつき「鼠径管」に内臓を包む腹膜が引き込まれていたり、年を取って徐々に「鼠径管」が広がって隙間が大きくなったり、「鼠径管」の壁が弱くなって押し出されたりするためです。鼠径ヘルニアを悪化させる要因として、「腹圧」が密接に関わっています。立ち仕事、力仕事、筋トレ、くしゃみ・咳、食ベ過ぎ、便秘、肥満、妊娠、出産など、日常生活の全ての動作が「腹圧」を上昇させる原因になります。鼠径部の隙間、あるいは弱った壁を補強しなければならないため、手術でしか治すことができません。
鼠径部には、男性では精索(精管と精巣動静脈の束)、女性では子宮円靱帯という管の束が通る隙間があいています。この隙間を通って、精索は陰嚢の中に入って精巣に、子宮円靱帯は会陰部付近に到達し付着します。このトンネル状の細い隙間のことを「鼠径管」といいます。鼠径管に腹膜が引き込まれてできたポケット状のスペースに、腸管が入り込んで膨らむのが、鼠径ヘルニアの原因です。
鼠径ヘルニアを放っておくと…
鼠径ヘルニアを放っておくと、「腹圧」の影響で徐々に膨らみが大きくなったり、運が悪いと飛び出た腸が嵌って抜けなくなり、締め付けられて腐り始める「嵌頓(かんとん)」の状態になります。
鼠径部が膨らんで戻らない、凄く痛い時は「嵌頓」の恐れがあり、すぐに急車を呼ぶ必要があります。発生率は、鼠径ヘルニアを放っている人の0.3~3%と言われ、滅多に起こらないのですが、突然起こるのです。違和感や痛みが強い時に、腹圧をかけると腸管が押し込まれるので嵌頓のリスクが高まります。違和感が強い時は横になって膨らみが元に戻る時は緊急性はありません。
「嵌頓」した場合は、できるだけ速やかに挟まれた腸を解除しなければならないため、緊急手術が必要になります。「嵌頓」を長時間放っておくと、腸が壊死(えし)して腹膜炎を起こし、命にかかわることがあります。「嵌頓」は滅多に起こらないですが、突然に起こるため、早めに手術で治したほうが無難です。
鼠径へルニアを放置していると、とび出た腸管が挟まれて戻らなくなることがあります。これを「嵌頓」と言います。嵌頓が起こると、時間とともに挟まれた腸管の「血流障害」と「通過障害」が進行するため、下腹部の強い痛みと腹部膨満や嘔吐といった腸閉塞症状が出ます。一刻も早く、挟まれた腸管を解除する必要があり、救急車を呼んで緊急手術が可能な病院に運んでもらいましょう。
鼠径ヘルニアの種類
「鼠径ヘルニア」は、外鼠径ヘルニアと内鼠径ヘルニア di 2種類になります。「鼠径部ヘルニア」として、外鼠径ヘルニアと内鼠径ヘルニアに加えて、大腿ヘルニアを含んだ3種類になります。大腿ヘルニアが鼠径部ヘルニアに含まれる理由は、飛び出る「穴」が近接しているため、3つのヘルニアの「穴」を同時にふさぐ手術を行っているからです。
外鼠径ヘルニア(がいそけいヘルニア)
「鼠径管」というトンネルから、腸が飛び出てしまうタイプです。胎児期に精巣や子宮円靭帯が「鼠径管」を通って定位置に収まるのですが、この時に内臓を包む「腹膜」という薄い膜の袋が、「鼠径管」に引き込まれ、外鼠径ヘルニアの原因となります。生まれつき大きく引き込まれている人は、赤ん坊や小学生ぐらいまでに手術をする人もいます。引き込まれていても、「鼠径管」が開いていない場合は、後天的に「腹圧」がかかることで、「鼠径管」が開いて、発生することもあります。男性・女性ともに一番多いタイプです。


内鼠径ヘルニア(ないそけいヘルニア)
「鼠径管」の壁を構成する「横筋筋膜」という元々、弱めの筋膜があるのですが、年齢を重ねることで、この筋膜が弱くなることで、壁ごと押し出されるように飛び出てしまうのが、内鼠径ヘルニアです。若年層では少なく、年齢とともに増えてくるタイプです。


大腿ヘルニア(だいたいへルニア)


「鼠径靭帯」の背中側には足に向かって続く血管が通る隙間が空いています。この隙間を「大腿輪」と呼んでいるのですが、この隙間からヘルニアが飛び出てしまうことがあります。男性では非常に珍しいタイプになりますが、女性は骨盤が丸く広いため、この靭帯の隙間である「大腿輪」が男性よりも開いているため、女性に発生しやすいヘルニアになります。何回も出産経験のある高齢女性に多いタイプです。
鼠径ヘルニアの治療
鼠径ヘルニアは、手術でしか治す方法がありません。「鼠径管」のトンネルや弱くなった筋膜に人工のメッシュを当てて、壁を補強する手術になります。メッシュはポリプロピレンという素材で、人体に永久に留置しても大丈夫な素材です。1990年代の前半頃から普及し始めて、現在では、メッシュを使用して治す手術が主流になっています。
治療方法は大きく分けて、腹腔鏡を使うか、使わないかで分けられます。
鼠径ヘルニアは、どうやって治すのか、という話をします。大きく分けるとメッシュを使うかどうかで、①組織修復法、②メッシュ法があります。現在はメッシュを使って治す方法が主流になっています。メッシュはポリプロピレンという素材でできています。メッシュを使うメリットは再発率が低いこと、術後のキズの痛みが少ないことです。
当院での治療方針は、腹腔鏡手術を希望される方は、第一選択として、TEP法を選択します。再発症例や大きなヘルニア、下腹部手術歴などでTEP法が困難な場合は、TAPP法を行うことがありますが、現在は、99%以上のケースでTEP法で手術を行っております。また、未成年や若年女性でメッシュを使う手術を希望されない場合は、LPEC法というメッシュを使用しない腹腔鏡手術を行います。2023年は528件の手術を行いましたが、TEP法が515件、TAPP法4件、LPEC法が9件でした。
鼠径ヘルニアの診断のための検査は?
鼠径ヘルニアの診断は、触診で行います。立った状態でお腹に力を入れて鼠径部が膨らむかどうかを触診で確認します。初期の鼠径ヘルニアで膨らみがはっきりしない場合、CTやエコーを行って診断することもありますが、膨らみの目立たないごく初期の鼠径ヘルニアでは、CTやエコーでも診断できない場合があります。
鼠径ヘルニアになりやすい人は?
鼠径ヘルニアは、日本では、年間15万人の方が手術を受けています。40歳以上の男性に多い病気です。鼠径ヘルニアは、先天的な腹膜の引き込まれ具合と、後天的な腹圧のかかる動作の二つの要素が複合して発生する病気です。そのため、長時間の立ち仕事や力仕事などの腹圧が多くかかる仕事の方や、花粉症や喘息で咳・くしゃみが多い方、便秘がちの方、肥満で内臓脂肪の多い方、妊娠・出産経験のある方などが、鼠径ヘルニアになりやすいといわれています。また、喫煙も筋膜を構成するコラーゲンの産生を抑制し、線維が弱くなりやすいため喫煙者も鼠径ヘルニアになりやすいといわれています。

当院のデータでは、2017年8月の開院から2024年7月末までの7年間で3,407名の鼠径ヘルニアの手術を行っています。男性が2,885名(84.7%)、女性が522名(15.3%)です。当院の患者さんは、日帰り手術を希望して受診されている方になりますので、次に示す全国平均と比べると30~60代の人数が多くなる傾向にあります。60代中盤にピークが来ていて、70代以降から徐々に少なくなっているのが特徴です。それでも、90歳以上の方でも、全身状態が良好で、ご家族の付き添いが可能などの条件が整っている方は、日帰り手術を行っています。

全国データ(BDグループ「そけいヘルニアノート」https://www.hernia.jp/hernia/about_1/より引用)では、70代中盤にピークが来ています。入院施設などを含めたデータでは、手術を受けている年齢層は70代にピークがきます。しかし、当院のような日帰り手術クリニックでは、30~60代の現役世代の受診が多い方が多くなるのが特徴的です。入院ができる病院と日帰り手術クリニックで、どちらも特徴を生かした役割分担ができていると思います。

