前回、構造的弱点があることをお話させていただきましたが、今日はこの構造的弱点についてもう少し詳しくご説明させてください。
そけいヘルニアは、いわゆる「脱腸」と呼ばれてきた大変ポピュラーな病気で、男性が罹患する確率が高いのも特徴です。そこには男性特有の事情があります。というのも、精子が生きるには人間の体温が高すぎるため、睾丸が腹壁を通って体の外へ出ます。その時に通った穴や通路(そけい管)が構造的な弱点となってしまうという男性に特有の理由です。そうすると筋力が弱ってきたというだけでも、穴に腸が入り込んでそけいヘルニアになります。
もともとそけい部は、皮膚と腹膜の間を支える筋肉が3つしかありません(外腹斜筋、横筋筋膜、腹膜前筋膜)。周りは5つの筋肉(外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋、横筋筋膜、腹膜前筋膜)で支えているのと比べるとただでさえ弱い上、そけい管と呼ばれる睾丸が通った穴と道が残っているので、なにかしら力がかかると腹壁の穴が広がり、腸が飛び出してしまいます。例えるならば、タイヤの一部分を削って空気を入れると中のチューブが飛び出してしまう様なイメージでしょうか。
次は女性の構造的弱点についてのお話をさせていただこうと思います。
この記事を書いたのは…
2002年山梨医科大学卒業。2008年長野市民病院でTEP法をみて衝撃を受ける。以来、鼠径ヘルニアの理想的な治療はTEP法だと確信して手技の研鑽を積む。2017年8月の開院から全ての手術を執刀。「初診から術後経過まで、執刀した外科医が責任を持って診るべし」が信条。好きな言葉は『創意工夫』