前回、男性編についてお話させていただきましたが、本日は女性の場合です。
二足歩行ゆえに鼠径部(そけいぶ)に内蔵の重みがかかる上、他の部位は5つの筋肉で支えているのに鼠径部を支える筋肉が3つしかないというのは男性と同じです。ただ女性の場合は、子宮を固定する繊維組織(子宮円靱帯、子宮円索ともいう)が鼠径管を通っています。男性の鼠径管は小指ほどの太さですが、女性の場合はそれよりも細いので、鼠径ヘルニアになる確率は男性よりも低いです。男性は全体の3割の人が、女性は全体の3%前後が鼠径ヘルニアになると言われています。
女性の場合は、出産のために骨盤の形が男性と比べて大きく広がっているのが特徴的です。このため、骨盤の鼠径部の隙間が男性よりも広がっている部分があります。鼠径部のヘルニアには3種類あるのです。大腿ヘルニアと呼ばれる、足に向かって太い血管が通る隙間から飛び出るヘルニアがあるのですが、この大腿ヘルニアになる割合が、男性の鼠径ヘルニアの1%以下に対して、女性の鼠径ヘルニアの2割がこの大腿ヘルニアで発生します。
鼠径部はデリケートな部分ですし、嵌頓(かんとん)し易いタイプのヘルニアであることが多いので、早期に、腹腔鏡による手術、特に腹腔内への影響が出来るだけ少ないTEP法が、薦められることが多いと思います。あまり人目に付く部分ではありませんが、女性ですとどうしても傷をできるだけ小さく目立たなくしたいですね。
この記事を書いたのは…
2002年山梨医科大学卒業。2008年長野市民病院でTEP法をみて衝撃を受ける。以来、鼠径ヘルニアの理想的な治療はTEP法だと確信して手技の研鑽を積む。2017年8月の開院から全ての手術を執刀。「初診から術後経過まで、執刀した外科医が責任を持って診るべし」が信条。好きな言葉は『創意工夫』