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鼠径ヘルニア(脱腸)の手術には、どの腹腔鏡カメラが有用か? ~腹腔鏡カメラの比較~

[2024.04.01]

ここ数か月、ブログでは、腹腔鏡カメラの話題、そしてその画質の話ばかりになってしまいました。

というのも、当院の腹腔鏡カメラを更新するため、

学会に参加して実物をチェックしたり、デモをお願いして実際の手術映像を確認したりと、必死で情報収集していたのです。

今回は、1年以上かけて集めた情報を、総まとめしたいと思います。完全な個人的主観になります。

 

腹腔鏡手術に最も重要なカメラの性能は何か?

 

それは・・・、

細部まで構造物がはっきりと映し出せて、色合いが自然で見やすいこと。

 

これに尽きます。

 

付随する機能は、いろいろあります。3DとかIRとかオートフォーカスとか。

でも、まず画質がいいことが最優先と考えています。

 

2024年3月現在、どこのメーカーのカメラが画質が最もいいのか、

そして、鼠径ヘルニアの手術の質を高められるのか、

ユーザー目線で紹介したいと思います。

 

現在、国内外で使われている腹腔鏡カメラは、多数あります。

これまでの販売実績、保証やサポートの観点から、実際に採用されているのは、

OLYMPUS(日本)、KARL STORZ(ドイツ)、STRYKER(アメリカ)の3つのメーカーであることが多く、3大メーカーと言っても過言ではないでしょう。

 

OLYMPUS ホームページから引用。https://www.olympus-medical.jp/

 

私自身、今までの常勤先の病院で使用していたものは、すべてOLYMPUSのものでした。

VISERA PRO、VISERA ELITE を採用した病院に勤めていて、2017年に開院するときに、VISERA 4K UHDを購入しました。

4Kカメラの最大のメリットである解像度の高さが決め手でした。2017年当時では、OLYPUSだけが4K腹腔鏡を製品化していました。

OLYMPUS社は2007年にVISERA PRO、2012年にVISERA ELITE(別ユニットを追加して3D機能を実現)、2015年にVISERA 4K UHD、2017年にVISERA ELITE Ⅱ(3D/IR機能搭載)、2022年にVISERA ELITE Ⅲ(4K/3D/IR一体型)が発売されています。業界で唯一のフレキシブルカメラ、そして一番早く、3Dや4Kを腹腔鏡カメラに導入したのが特徴的です。

4Kカメラと3Dカメラの本体は別ユニットでしたが、2022年発売の最新のVISERA ELITE Ⅲで本体部分が統合され、一つのユニットで済むようになりました。本体に取り付けるカメラヘッドがそれぞれ必要になりますが、カメラヘッドを差し替えるだけで4Kも3Dも使えるのは魅力的です。

OLYMPUS ホームページから引用。https://www.olympus-medical.jp/

IR機能は、赤外光を当てて、違う視点から術野を確認する技術です。手術中にICGという特殊な薬液を点滴に静注して、特殊光を照らすことで血流の有無が確認できます。胃癌や大腸癌などの手術では、腸管の吻合が必要なため、吻合部付近の血流が確認できることは、非常に有用な機能です。血流の悪いところで吻合すると、吻合部がくっつかないリスクが上がるからです。しかしながら、そけいヘルニアの手術では、腸管をつなぐという操作はないため、IR機能は必要ないのです。

カメラヘッドには、セパレート型、一体型があります。セパレート型は本体部分とレンズ部分が別々になっていて、硬性鏡という細長いレンズをカメラヘッドに装着して使います。一体型は、カメラヘッドとレンズ部分が一体になっており、先端が自由に曲がるフレキシブルタイプと硬性鏡タイプがあります。硬性鏡タイプのカメラヘッドは、イメージセンサーがカメラヘッド内にあるため、大きめのイメージセンサーが使えるため画質が良くなります。フレキシブルタイプはイメージセンサーをカメラの先端に装着するのでイメージセンサーが小型になってしまうため、画質が悪くなってしまいます。OLYMPUSは、消化管内視鏡でも世界的なトップブランドであり、このフレキシブルタイプをカメラを得意にしています。3大メーカーの中で唯一、フレキシブルタイプの腹腔鏡を取り扱っています。

しかしながら、フレキシブルタイプの腹腔鏡は、技術開発が難しいのか、残念ながらカメラヘッド部分の新製品がなかなか発売されません。現在、OLYMPUSのフレキシブルタイプのラインアップでは、2D/10mmが1920x1080の解像度、2D/5mmが1280x720の解像度、3D/10mmが1280x720の解像度になります。いずれも2017年のVISERA ELITE Ⅱが出たときに同時期に発売されたモデルです。2022年にVISERA ELITE Ⅲが発売されたのですが、更新されたのは本体のユニットだけで、カメラ部分は更新されませんでした。つまり現行のフレキシブルカメラは、2017年の基本設計のため、先端につくイメージセンサーも古いタイプなので、現在ではフレキシブルタイプの画質は、どうしても見劣りしてしまうのが難点です。できるだけ早く、画質のいいフレキシブルタイプの新モデルが出てほしいものです。

 

OLYMPUSの3Dカメラには、フレキシブルタイプ(1280x720)と硬性鏡タイプ(1280x720)があります。

3Dカメラの構造ですが、10mmの太さのシャフトの中に5mmのレンズとCCDセンサーをそれぞれ2個ずつ、光源を並べて配置しています。カメラの太さが10mmでも左右の眼にそれぞれ別々の映像を撮影しなければならないので、片眼のカメラは5mm径になってしまいます。OLYMPUSのカメラの場合は、サイド・バイ・サイド方式が採用されているので、片眼当たりの解像度は、フレキシブルタイプで640x720、硬性鏡タイプで640x720になります。

OLYMPUSは、2022年にVISERA ELITE Ⅲが発売されたことで、4K、3D、IR機能の全てが1台で済むようになりました。当院では、3DとIR機能は使用しないので、4Kの性能こそが導入の決め手になります。VISERA ELITE Ⅲは、本体にHDR(HLG)機能を追加、カメラヘッドは10gの軽量化と持続オートフォーカス機能が追加されました。実際にデモを行って、使用した感想は、BT.2020の発色と色合いの調整機能が少し使いづらいように感じました。

 

 

 

KARL STORZ ホームページから引用。https://www.karlstorz.com/jp/ja/index.htm

KARL STORZのカメラは、今まで勤めた常勤先では採用されておらず、使う機会がなかったのですが、非常勤で手術の手伝いをするときに触れる機会がありました。

ラインナップは、硬性鏡のみです。通常のセパレート型と3D用に一体型があります。2015-2016年頃に3D(1920x1080、ライン・バイ・ライン方式、片眼あたり1920x540)、2018年に4K機能がラインナップに加わりました。KARL STORZは下位モデルとの互換性を重視していて、古いモデルでもユニットを追加するだけで、新機能が追加できるのが特徴でした。2020年にベースユニットが刷新され、4K/3D/IRが使えるようになりました。用途に応じてユニットを追加する必要がありますが、3Dは4K解像度になったので、片眼当たりでも3840x1080の解像度になっています。フルハイビジョン以下の3Dカメラは、解像度の粗さが目立ってしまうのですが、4K-3Dは片眼当たり3820x1080の解像度なので、かなり良さそうです。

KARL STORZ ホームページから引用。https://www.karlstorz.com/jp/ja/index.htm

実は、KARL STORZのモデルは、今回のデモから外しました。4K-3Dはかなり魅力的だったのですが、基本設計が4K-2Dモデルが2018年、4K-3Dモデルが2020年のため、現時点では古い部類に入ってしまいます。今後、すぐに新モデルが出てしまう可能性があること、3D映像を表示できるディスプレイがKARL STORZ純正の58型までしかないこと、3Dテレビは家庭用の民生品の発売が2016年モデルを最後に終了したためディスプレイの技術革新が乏しいことが、候補から外した理由です。当院では65型の大型有機ELモニターを使用していますが、画面は大きいほどいいです。できれば、もうワンサイズ大きなモニターで手術をしたいと思っています。そういう意味では、家庭用の民生品の開発が終わっている3Dテレビ市場で、大型モニターの再登場と発展を期待するのは厳しいかな、と考えています。

3Dカメラは、両眼の映像を別々に撮影するために5mmカメラを2個並べなければならず、10mm単眼カメラに比べ、取り込める光量が少なくなり画質が悪くなってしまいます。10mmカメラより画質の落ちる5mmカメラの映像がベースになるうえ、両眼の映像を同時にモニターに表示するので、片眼当たりの画素数がさらに半分になってしまうというのが、無意識に3Dを避けてしまう本当の理由なのかもしれません。

 

片眼あたりの解像度は4Kのままにして、フレームレートを倍の120fpsにして、左右を交互に映すような3Dカメラが出て欲しいです。

5mm径のカメラでも10mm径に負けない画質にするには、レンズとイメージセンサーと光源の性能アップが必要になるのでしょうか。

3Dモニターの進化には、家庭用の3Dテレビが4K画質で復活して市場規模が拡大しないと、医療分野だけでは技術革新が難しいのかもしれません。

 

 

 

STRYKER ホームページから引用。https://www.stryker.com/

STRYKERの腹腔鏡システムは、セパレートタイプの硬性鏡のみのラインナップで、3Dやフレキシブルタイプはありません。最近では、2015年に『1588』(IR)、2019年に『1688』(4K/IR)、2023年に『1788』(4K HDR/IR、日本発売は2024年)と4年毎に新モデルを発売しています。4Kカメラは2019年発売と他社と比べ少し遅れましたが、今回発売した『1788』では、4K/HDR (さらに10bit YCbCr 4:4:4)となり、画質の向上は素晴らしく、現時点で、最高の画質だと感じています。

STRYKER ホームページから引用。https://www.stryker.com/

 

 

画質のいいカメラは、組織の細部まで捉えることができて、色彩や濃淡まで忠実に再現できることができます。忠実に再現された2D映像は、陰影の描写がしっかりと表現できるので立体感がつかみやすく、腹腔鏡操作で細かい作業をしても、空間認識に困ることはほとんど無いのです。感覚的なことなので、実際にどういう理屈で手術がやりやすいのかは、本当のところはわからないのですが、当院で使用しているOLYMPUS VISERA 4K UHDは、大型のイメージセンサーを使い、焦点深度・被写体深度が浅いため、厳密なピント調整が必要になりますが、高解像のピントが合った部分と周りのピントがずれた部分に差がでることで、2D映像でも空間認識に困ることがなかったのではないか、と考えております。

以前、BT.2020信号がちゃんとでているかどうかを確認するために、OLYMPUSの技術部の担当者の方と話す機会があったのですが、OLYMPUS VISERA 4K UHDは、焦点深度が浅く、ピーキー(尖んがり)過ぎたので、後継のVISERA ELITE Ⅲではカメラヘッド部分に広角レンズを仕込んで特性をマイルドにして使いやすくした、という話を伺いました。VISERA 4K UHDが2015年発売にもかかわらず、まだまだ十分に通用しているのは、大きなイメージセンサーを使って画質を優先した、尖がり過ぎた設定のお陰なのかもしれません。

そのお陰で当院でも7年近く、画質に困ることなく手術ができました。細かいことを言えば、大型モニター導入、BT.2020/HDRに信号変換、3D-LUTフィルターの導入などの工夫は行いましたが、長い間、十分に活躍してくれました。ただ、やはり時代の流れには逆らえません。少し、寂しい気持ちはありますが、当院では、STRYKER 1788 を採用することにしました。今後は、VISERA 4K UHDはバックアップ機器に回ります。

 

次回は、新たに導入したSTRYKER 1788と、故障などの器械トラブル時にはバックアップであるVISERA 4K UHDに瞬時に切り替えられるシステムを紹介したいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

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