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鼠径ヘルニアの日帰り手術クリニックで、手術中に停電になっても大丈夫か?

[2024.06.24]

もし手術中に停電になったら…

手術を受けるだけでも心配なのに、そんなことを考えると、さらに不安になってしまいますよね。

当院では、万全の停電対策をしていますので、安心して手術が受けられます。

 

最大出力2000W、容量8280Whの大型バッテリーでバックアップ

当院では、株式会社アイケンの蓄電池「OA-2000B6」を使用しています。最大出力2000W、バッテリー容量8280Whになります。手術中に使っている機器や必要不可欠な電化製品など、最大消費量の合計で、多く見積もっても2000Wまでは到達しません。しかし、当院のシミュレーションでは、最大消費量を2000Wで試算しています。例えば、電気メスの電力消費量は300~350Wになります。電気メスで切る瞬間は、これだけの電気を消費しています。もちろん、手術中ずっと電気メスがオンになっているわけではないのですが、その他にも、腹腔鏡のカメラやモニター、超音波凝固切開装置、人工呼吸器、腹腔内を照らす光源装置、送気・吸引装置のコンプレッサーなどを合わせた消費量を2000Wと見込んでいます。当院の蓄電池の容量は8280Whなので、最大消費量を使い続けたとしても、4時間超の手術および必要不可欠な電気製品が稼働できる計算になります。開院前の内装工事の段階で、蓄電池から壁内に配線を施して、手術室をはじめとする主要な場所にコンセントを配置しています。アイケンの蓄電池のいいところは、普段は、一般のコンセントとして蓄電池を使用して給電しながら、同時に蓄電池への充電を行っています。いざ停電になり充電が途絶えると、蓄電池からの給電がそのまま継続されます。そのため、手術中に停電が起きても、すぐにバックアップの蓄電池に切り替わり、手術に支障をきたすことがないのです。

サーバー室内に設置されたアイケン社製「OA-2000B6」。最大出力は2000W、蓄電池容量8280Wh。

 

停電はいつまで続くかわからない

停電が起こった場合は、いつまで停電が続くのか、誰にもわかりません。すぐに復旧するのか、何時間も続くのか。もし、手術中に停電が起こった場合、当院では、バックアップ電源に切り替わりますが、その手術を速やかに終わらせて、その日の診療は終わりにします。停電が続いているのに、2件目、3件目と新たな手術を始めることはありません。停電が起こったときに行っている手術を、安全に速やかに終わらせることだけに全力を尽くします。手術開始直後に停電が起こったとしても、通常は1時間以内に手術が終わりますので、最大消費を続けても4時間まで対応可能です。十分に余裕を持った容量といえるのです。

「OA-2000B6」の扉を開けたところ。半年ごとに定期メンテナンスを行っている。

バックアップ電源のメンテナンス

バックアップ電源のメンテナンスは、半年に1回、バッテリー液の液量と電圧のチェックを行います。この定期メンテナンスは業者と契約し、半年ごとに必ず行っています。バッテリーの寿命は、おおよそ3年半から4年であるため、寿命が来たら、バッテリーを交換することになります。蓄電池型のバッテリーは満充電による「劣化」が生じるので、定期的なメンテナンスが必須です。当院でも導入後、4年が経過した2021年にバッテリーの総入れ替えを行いました。次回の総入れ替えは、2025年の予定です。

 

日帰り手術クリニックで大型蓄電池以外の選択肢はあるのか?

発電機は?

実は、開院準備をしていた時に、停電に対する備えをどうするかをいろいろと考えました。例えば、発電機ですが、数百床レベルの病院では、非常用の発電機を持っているところが多いです。万が一、停電しても自家発電をすることができる訳です。しかし、当院のようなビルのテナントで開業しているクリニックは、ビル単位で備え付けるような大型の発電機は、ビルオーナーが用意しているかどうかにかかっており、テナントレベルでは、どうすることもできなかったため諦めました。他の発電機としては、ガソリンなどの燃料を利用した小型発電機もありますが、こちらは排気ガスが出るため、室内では使えないこと可燃性の燃料を確保し続けなければならないこと、屋外で発電して屋内の必要機器までの延長コードが必要なこと、そして緊急時にはコンセントを繋ぎ変えなければならないことがあり、ガソリンなどの燃料型の小型発電機の導入は見送りました。

サーバー室から手術室内にコンセントとして配線されている。麻酔器やLED照明、コンプレッサーなど手術中に必要な器具とつながっている。

ポータブルタイプの小型バッテリーは?

ポータブルタイプの小型バッテリーもあります。最近では、大きなものになると2000W出力、1000Wh超のものがあります。しかし、1000Whだったとしても停電時の予想使用量では、30分ほどしか持ちません。手術用のバックアップ電源としては容量に不安があります。

小型バッテリーは、キャンプなどに出かけるのときに備えて、あらかじめ充電する使い方では問題はないと思います。しかし、停電のような不測の事態に備えるには、常に充電されているかどうかがポイントになります。また常に充電していた場合、満充電の状態が続いているとバッテリーの劣化が早まるため、いざという時に蓄電量が落ちている可能性があります。停電後に必要な場所に運んでコンセントをつなぎかえなければならず、手術中の停電という緊急時の運用には厳しい側面があります。しかしながら、高機能のポータブルタイプの小型バッテリーは、常時、電源が必要な場所につなげておいて、突然停電になったときに、EPS(Emergency Power Supply)機能と呼ばれる0.02秒程度で切り替わるタイプもあります。こういったEPS機能付きの高性能タイプであれば、容量に応じて手術室の特定の機器のバックアップは可能です。しかし、バッテリー容量や設置スペースの制限、劣化の問題があるので、あくまで補助的な役割で使用するのが無難でしょう。

大型モニター下のコンセント。手術中は、このコンセントに腹腔鏡のカメラ一式と電気メスなどのエネルギーデバイスが繋がる。

 

やはり設計段階から、大型バッテリーを組み込んでおくのが理想的

小型発電機や小型バッテリーは、緊急時に必要な場所までの持ち運び、コンセントの繋ぎかえという二つの動作が必要になります。停電時は室内も暗くなるため、スムーズな復旧作業の妨げになります。もし手術中に停電が起こったら、手術の進行状況にかかわらず、手術の中断を余儀なくされるうえに、電源確保までにいくつもの動作が必要になるのです。また、EPS機能付き高性能の小型バッテリーでは、バッテリーが必要な場所にそれぞれ置くことで、持ち運びやセッティングの手間を回避できます。しかしながら、容量が小さいこと、必要機器の近くにスペースが必要なこと、バッテリーが劣化していく可能性などの弱点があるため、これを踏まえたうえでの余裕をもった運用が必要になります。メンテナンスフリータイプが多いですが、時間経過でバッテリーは劣化するので注意が必要です。こういった観点からも、設計段階の時点で、大型バッテリーの設置スペースと、手術室内までの配線を組み込んでいることが重要になるのです。手術の成功の可否は、手術前の準備段階から、いや、クリニックの設計段階から既に始まっているのです。停電対策も重要な手術前準備の一つです。

 

 

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