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そもそもBT.2020とは?

[2024.01.29]

『ウィキペディア』 https://ja.wikipedia.org/wiki/Rec._2020 より引用

先日、OLYMPUS VISERA ELITE Ⅲ のデモで取り上げた「色域」に関してのお話です。

 

実は、年末にOLYMPUSさんから回答をいただきました。

BT.2020の色域の信号は、

「映像出力内のペイロードIDという形で付与されており、専用のモニターとのセットでペイロードIDのカスタム領域を用いて情報を載せている」

とのことでした。

まだ中間報告として取り急ぎとのことだそうですが、なかなか難しい内容だったので、理解するためにいろいろと整理してみました。

 

 

「色域」とは何なのか、まずはここから始めないといけません。

高画質な映像を映し出すためには、5つの要素があると言われています。「解像度」「ビット深度」「フレームレート」「色域」「輝度」の5つです。この5つの要素が高いほど高画質の映像が表現できるというわけなのです。

 

それでは「BT.2020」とは何なのでしょうか?ITU(電気通信・放送の世界基準)が勧告する2020番目の基準で、2012年8月に定められました。正式には、ITU-R Recommendation BT.2020と表記され、「Rec.2020」や「BT.2020」で略されます。「BT.2020」では、「解像度」4K or 8K、「フレームレート」120p~23.976p、「ビット深度」10bit or 12bit、「色域」の4つの項目が規定されています。

この「色域」が扇形のような色のグラフに三角形で示されている図になります。電気屋さんのテレビ売り場などで見たことのある、あの図です。

「BT.2020」では、この「色域」が強調されることが多いため、てっきり「色域」の三角形のみが「BT.2020」だと思い込んでいたのですが、実は「解像度」、「フレームレート」、「ビット深度」も一緒に規定されていたのです。ちなみに2016年7月に「BT.2100」が規定されて、「BT.2020」の4つの項目にさらに「輝度」が加わり、5つの要素が全て規定されました。

「BT.2020」の色域とよく比較されるのが「BT.709」の色域です。1990年に制定された基準です。フルハイビジョン画質までは、この「BT.709」の色域になります。この「BT.709」と「BT.2020」の色域の広さを比較するときに使用される図が「CIE1931 色度図」で、自然界に存在する色をすべて現した図です。電気屋さんで見る扇形の色の、あの図です。BT.2020ではCIE1931 色空間の75.8%、BT.709では35.9%がカバーされています。つまり、BT.2020は、BT.709の2倍以上の色を表現することができるのです。

『EIZO株式会社』ホームページ https://www.eizo.co.jp/eizolibrary/color_management/colorworkflow/series-03.html から引用

 

2012年に制定された「BT.2020」ですが、最初はこの信号を1本のケーブルで伝達することができませんでした。業務用の映像機器には、3G-SDIケーブルという同軸ケーブルが使用されているのですが、「BT.2020」の信号は、情報量が多くて1本では伝達できなかったのです。そこで、3G-SDIケーブルを4本使って情報を伝達することになります。Quad-link 3G-SDIと呼ばれます。このSDIケーブルには、SMPTE(米国映画テレビ技術者協会)が定める規格に沿って、情報伝達が行われます。3G-SDIは、SMPTE 424 Mという規格で1920x1080の解像度を伝達します。つまり、4Kの解像度の情報を送るには4本の3G-SDIケーブルが必要だったわけです。しかしながら、SMPTE 424 Mが作られた当時は、BT.709の頃の色域であったため、BT.2020で定める色域や、輝度の情報は付加されません。3G-SDIケーブルでBT.2020の色域・輝度が情報が規定されるようになったのは、2018年頃に制定されたSMPTE 425 Mの規格からなのです。

また、4本の3G-SDIケーブルでは取り回しが不便であるため、1本で済むようなケーブルも開発されます。2014年に12G-SDI端子が実用化され、それまで3G-SDIケーブル4本で伝えていた情報を、12G-SDIケーブル1本で伝送できるようになりました。しかし、12G-SDIの信号は、高周波の信号になるため、開発当初はケーブルが短いものしかなかったそうなのですが、徐々に改良がなされて、長いケーブルが使えるようになりました。

 

つまり、OLYMPUS VISERA 4K UHDが発売された2015年当時では、2014年に12G-SDI端子が実用化されてはいたものの、ケーブル長の問題があったため、Quad-link 3G-SDIを採用した。しかし、BT.2020の色域を伝達する統一の規格がなかったため、独自信号を、BT.709の信号に付加(ペイロードID領域を利用)して、BT.2020相当の色域を表現した、ということになります。

 

そうなると、当院で検証した方法では、当然、BT.709しか検出ができないし、専用モニターではない最新の有機ELテレビでは、独自信号の解読はできないので、単なるBT.709としてしか映らなかった訳です。

 

このペイロードIDの付加情報を読み取れる器械もあるようなのですが・・・、

株式会社朋栄 EVC-4000

レンタルはしていないとのことでしたので、さすがに購入するわけもいかず、諦めることにしました。

 

ただ、そうなると、専用モニターでは、BT.2020相当の映像が出ていたのでは? ということになります。

 

しかし、この話には、まだまだ続きがあるのです。

実は「BT.2020」の色域を100%表現できる液晶モニターや有機ELモニターは、実はまだ開発されていないのです。最近の高性能のモデルでも80%前後となっています。レーザー光を用いた特殊なモニターやプロジェクターでは、BT.2020の色域の99%以上を再現しているモデルもあるようですが、液晶モニターや有機ELモニターでは、BT.2020の色域の80%を超えれば、かなり優秀な再現率になります。

 

それではOLYMPUSの専用モニターは、どれぐらいの再現率だったのでしょうか?

VISERA 4K UHD の専用モニターとして、SONY LMD-X310S がシステム一式に組まれています。このモデルは市販されている LMD-X310MD と同じ製品で、OLYMPUSのセットに組まれているかどうかで型式が変わります。実は、LMD-X310Sとしては情報が少ないため、同等品のLMD-X310MDで情報収集すると、このモニターのスペックがわかります。カタログのPDFから抜粋すると、

 

つまりBT.709の143%の色域が表現できると謳っているのです。

BT.2020ではCIE1931 色空間の75.8%、BT.709では35.9%でしたから、BT.2020の領域を100%として、BT.709は47.36%、その143%は67.7%となります。

最近の高性能モニターのBT.2020の再現率が80%前後といわれていますので、2015年当時では、かなり頑張った数字なのではないかと思います。しかし、使用していた自分の感想は、「純正モニターの方が少し明るくて鮮やかだけど、液晶と有機ELの明るさの違いかな」程度の差でしかなかったため、大画面の有機ELモニターを優先的に使っていました。BT.2020相当の信号を出力されていても、モニターの性能に限界があり、そこまでの差を表現できなかったのかもしれません。

 

2024年になり、Strykerの新型の4Kモデルも発売されました。

昨年末から、先週の金曜日まで新型も含めて、2社のデモを行いました。

画質は、色域で決まる、BT.2020が表現できるかどうか、と思っていたのですが、各社の4Kモデル、BT.2020の発色を確認したことで、新たな発見がありました。それは・・・、

 

「BT.2020の色域は、モニターで表現させるチューニングの方が難しい」ということでした。

 

BT.2020は、表現できる色が倍以上になり、各色の鮮やかさが際立つようになりました。鮮やかさが強すぎるとかえって見づらく感じてしまうこともあるのです。それは、先日のOlympusのデモでも感じたことでした。その鮮やかな色をどう表現するか、これこそが、各社の器械全体の性能で決まるのがわかりました。

 

器械全体の性能とは、

イメージセンサー、本体のプロセッサーで処理、光源のライトの質、硬性鏡のレンズ、モニターの表現力。

 

この5つの総合力で、画像の美しさが決まるのであって、BT.2020が表現できているかどうかは、その中の細かい要素の一つに過ぎなかったのです。

とにかく、

「映像が大型モニターに映し出されて、それが純粋に綺麗かどうか」

が一番大事であり、各社のカメラを比べてみることで、その強み弱みを知ることができました。

 

次回は、新たにデモした2社のレビューをしたいと思います。

 

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