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新機種 OLYMPUS VISERA ELITE Ⅲのデモ

[2023.11.23]

腹腔鏡手術の"要”である、腹腔鏡カメラについてのお話です。

現在、当院で使用しているモデルは、OLYMPUS VISERA 4K UHD という解像度が4Kのものを使用しています。

2015年に新発売したモデルで、当院では2017年8月の開院時から使用し、まだまだ現役で、毎日、手術室で稼働しております。

しかし、2022年12月に後継モデルが登場したため、その進化を体感するべく、新製品、 VISERA ELITE Ⅲ (上の写真)のデモを行いました。

 

VISERA ELITE Ⅲは、4Kカメラ、3Dカメラ、IR蛍光観察が1台のコントロールユニットで運用できるシステムになっています。4Kの前モデルであるVISERA 4K UHDと、3DとIR蛍光観察ができるVISERA ELITE Ⅱの2台の機能を1台に凝縮させたモデルです。この1台で4Kから3D、さらにIR蛍光観察ができることが最大の特徴です。しかし、当院では、3D機能とIR蛍光観察機能は使用しませんので、4Kカメラの性能がどれだけ向上しているかが導入のカギとなります。

 

カタログスペックでの比較です。

 

当院使用モデル

VISERA 4K UHD

2015年12月発売

新モデル

VISERA ELITE Ⅲ

2022年12月発売

解像度

3860x2160 3860x2160
フレームレート 59.94fps 59.94fps
ビット深度  10bit 4:2:2  10bit 4:2:2
色域 BT.2020(※) BT.2020
輝度 SDR HDR(HLG)
出力端子 Quad-link 3G-SDI 2系統

12G-SDI 2系統

Quad-link 3G-SDI 1系統

カメラヘッド

280g

通常のauto focus

270g

持続auto focus

光源 キセノンランプ LEDランプ

 

カタログ上では、輝度がHDR(HLG)に対応した以外は、新旧モデルで大きな性能の違いはありません。

 

カメラヘッドは、10gの軽量化と持続オートフォーカスが採用されています。一般的に、4Kカメラは画素数が多く綺麗に映ることがメリットですが、焦点深度が浅いためピントが外れやすいことがデメリットです。この弱点を改善したのが、持続オートフォーカス機能です。画面中央に常にピントを合わせ続けることで、ボケのないクリアな映像をキープできます。実際に目視することができない腹腔鏡手術では、とても魅力がある機能です。

(上)新型CH-S700 (下)旧型CH-S400

 

また光源ユニットが、旧モデルではキセノンランプだったのに対し、新モデルではLEDランプになりました。やや赤みを帯びた光で、見た目でも光量が増した感じがしました。

(左)LED光源 (右)キセノン光源 ※背景は白無地タオル、ランプの光量が強く、相対的に灰色に見えている

 

7月中旬に1度目のデモを行いました。

 

映像が映し出されて、まず感じたことは、

発色が鮮やかになった・・・のですが、なぜか違和感がありました。

 

全体のバランスは、綺麗に映っているというよりは、個々の色が主張しすぎていて、かえって見づらくなった気がしました。発色がかなり鮮やかになった影響で、かえって色が見づらくなることがあるのか、と考えましたが、「これはカタログスペックの輝度の差だけではないな」と直感的に思いました。新モデルについているHDR(HLG)機能をオフにしたところ、発色の鮮やかさは変わらず、明るさが若干変化しただけであったので、やはり原因はHDR(HLG)機能の差ではないと感じました。

このときモニターは3系統出力しています。オリンパスから借りた純正モニターLMD-XH320ST、当院の大型有機ELテレビSONY A90J、録画用モニターNINJA V+の3つに映像が映し出されます。新モデル(VISERA ELITE Ⅲ)は大型モニターとの相性は特に悪く感じました。オリンパス純正のモニターは、発色が鮮やかになってはいますが、比較的綺麗に見えてはいたので、「これはただ単に慣れの問題かもしれない」ということで、3日間のデモが終わりました。

 

前回のブログで予告していた課題というのは、

課題① 新モデルは、純正モニターが鮮やかすぎる

課題② 当院の大型モニターで、きちんと色が表現されず色合いが非常に見にくい

の2点だったのです。

 

課題①では、カタログスペックによると、新旧モデルでの差は、解像度・フレームレート・ビット深度・色域までが同じで、輝度がSDRからHDR(HLG)になっただけの違いです。新旧モデルで輝度だけではない、明らかなに色合いに差を感じます。本体の映像処理のプロセッサーが進化したからなのでしょうか。それでは腑に落ちない違和感が残りました。

 

課題②は、「素直に純正品を使えばいいじゃないの」といわれてしまうかもしれませんが、大型モニターのメリットが大きいため、ワンサイズ小さい純正品には戻れません。課題②の克服こそが、新モデルを導入するかどうかの決め手になります。大型モニターでうまく映らなければ採用しない、ということが明確になりました。

 

 

この課題をクリアするために、10月下旬に2回目のデモを行いました。今度は7日間のデモです。

ただし、同じことをやってもダメなので、対策を立て臨みます。

 

 

新モデル(VISERA ELITE Ⅲ)の出力端子は、12G-SDIとQuad-link 3G-SDIの2種類あります。

前回のデモでは、純正モニターは12G-SDIで接続、大型モニターへの出力は当院の現環境に準じて、Quad-link 3G-SDIを使用して、HDMIに変換していました。

今回は、大型モニターへの出力をQuad-link 3G-SDI経由ではなく、12G-SDIからHDMIに直接、変換してみます。

純正モニターとの接続は、前回と同様に12G-SDIを使用し、こちらは変更なしです。

また、出力された信号を検証するために、解析機器を使います。

それが、AJA ColorBox です。

入力信号を解析して、輝度や色域を変換できる高性能な機器です。しかも12G-SDIの信号を直接入力することができ、12G-SDIとHDMIの2系統で出力されるため、今回の検証にはうってつけになります。

 

Color Boxを当院の旧モデル(VISERA 4K UHD)にQuad-link 3G-SDIで接続すると・・・

出てきた信号は、色域BT.709、輝度SDR ?!!!

VISERA 4K UHD に接続した実際の腹腔鏡カメラで、本体正面を撮影しながら、ColorBoxのwebコンソール画面で映像と信号を確認している。BT.2020に設定しても、実際の信号はBT.709が出ている。

 

 

次に、新モデル(VISERA ELITE Ⅲ)に接続すると・・・

 

12G-SDI接続では、色域BT.2020、輝度HDR(HLG)

Quad-link 3G-SDIで接続では、色域BT.709、輝度SDR !!!

VISERA ELITE Ⅲ に接続した実際の腹腔鏡カメラで、本体正面を撮影しながら、ColorBoxのwebコンソール画面で映像と信号を確認している。12G-SDIではHDRをオンにすると、HLG / BT.2020 の信号が出ている。

 

つまり、Quad-link 3G-SDI接続では、新旧モデルともに、実は色域がBT.709しか出ていなかったのです。(最初の表の

もちろん、Quad-link 3G-SDI接続でも、色域BT.2020を映し出すことはできます。SMPTE 425 Mという規格を満たしていれば、色域BT.2020や輝度HDR(HLG、PQの両方とも)の信号を出力することはできるのです。今回のデモで、新旧モデルともにQuad-link 3G-SDIでは、色域BT.2020が出ていなかった原因は、OLYMPUSのQuad-link 3G-SDIがSMPTE 425 Mの規格を満たしていないことが理由だったのです。

 

4Kカメラからの映像は、カメラレンズから得た光をイメージセンサーに送って処理されます。イメージセンサーで取得した情報(解像度、色域、輝度)がモニターに出力されて、人間の目で見ることができるようになります。

初回のデモでは、新モデル(VISERA ELITE Ⅲ)は、オリンパスの純正モニターでは12G-SDI接続されていたため、取得した情報(4K、BT.2020、HDR)をそのまま出力できていたのです。そのため、BT.2020で映し出されていた純正モニターの映像は、(見慣れていないためか)鮮やかさが気になった訳です。しかし、Quad-link 3G-SDI接続の大型モニターでは、イメージセンサーで取得した情報が4K、BT.2020、HDRにもかかわらず、Quad-link 3G-SDIに出力する段階でBT.709、SDRに強制的に変換していたため、色彩のバラバラ感が強く出ていたのです。これこそが、最初のデモのときに大型モニターで映し出された映像が、新モデルなのに綺麗でないと感じた理由だったのです。(課題②の答えです)

 

一方で、旧モデル(VISERA 4K UHD)は、そもそも4Kカメラからイメージセンサーで取得した情報が4K、BT.709、SDRであるため、モニターでは違和感のないBT.709映像が表現されていた訳です。解像度こそ4Kできめ細かい画像が出力されていたのですが、色域はBT.709とフルハイビジョン規格相当だったのです。開院前に勤めていた施設で使っていたカメラは、10㎜カメラで解像度1920x1080、色域BT.709のスペックでした。開院してVISERA 4K UHDを使い始めた時、解像度3840x2160、色域BT.709のスペックでも、解像度が4倍になっていたため、画像がきめ細かく綺麗に感じたのですが、色域に関しては、前々モデルと差がなかったため、違和感を抱かずにBT.709の映像を見れていたのです。

 

今回の新モデルを使ってみて初めて色域BT.2020の映像を初めて体験し、その色の鮮やかさを強く感じることができました。前モデルのVISERA 4K UHDが色域BT.2020というカタログスペックを満たしていなかったため、初めてBT.2020の鮮やかな映像を目の当たりにしたことが、違和感の正体だったのです。(課題①の答えです)

 

原因は解明できましたが、旧モデル(VISERA 4K UHD)がカタログスペックを満たさないBT.709しか出力されていないことがわかり、ショックを受けています。画素数は4Kで細かくなって綺麗なのですが、色域がフルハイビジョンと同等だったのかと思うと、少し残念な気持ちになりました。

新モデル(VISERA ELITE Ⅲ)では、12G-SDIからHDMIで変換することで、大型モニターでも映像を綺麗に映し出すことに成功しました。導入の障壁であった課題は見事にクリアできたわけです。

しかし・・・、

現時点で、このまま新モデルをすぐに採用する気分にはなれません。

旧モデル(VISERA 4K UHD)がカタログスペック通りのBT.2020の信号を出すことができるのかは、現在、オリンパスに確認中ですが・・・、販売が終了しているモデルなので、厳しいかもしれません。(2024.1.29追記 オリンパスから回答をいただきました。)

 

今回のデモで得た教訓は、道具は実際に使ってみないとわからない、という当たり前のことでした。

 1. カタログスペックを過信せず、実際に使ってみて判断すること

 2. メーカー推奨の組み合わせは、時として問題が隠れてしまうこと

 3. 測定器などを使用し、客観的な判断基準を参考にすること

が大事なのだとわかりました。

 

他社の腹腔鏡カメラも新モデルの発売が控えているので、実際に使ってみて、手術の質の向上につながるものを採用したいと思います。

 

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